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おひとり様弁護士は、ダイソーではいられないのだ。

ひどい雨からスタートした今週。
事件の関係で、赤坂通いが続いているテラバヤシです。
傘をさして、坂を上るのは結構しんどいです。

前回の投稿、非常に多くの方に読んでいただきました。ありがとうございました。
ご批判や異論などもいくつか拝読しました。
そのうえで、改めて考えたことがあるので、今日はそのことについて、つらつらと思いつくままに書いていこうと思います。

(かなり予想していたのですが)「考えが甘い!!」「インテリジェンスが足りない(注:テラバヤシの表現ではないです)相談者を捌くのも弁護士の腕」などという異論についてですが、やはり、そういうことではないんだろうな、と思いました。

一筋縄ではなかなか対応が難しい相談者を捌くこと(個人的に、相談者を「捌く」という表現は好きではないのですが)と、間口を広げて、そういうお客を事務所の利益を上げる柱の中に入れてしまうこととは、全く別な問題です。
間口を広げてこのような相談者や依頼者を多く呼び込むことになると、経済的な問題点と精神的な問題点が生じることになると思います。

経済的な問題というのは、ぶっちゃけて言うと「コストパフォーマンスがかなり悪いお客の相手に相当な時間をとられる」ということです。
しょっちゅう電話がかかってきてそのたびに長電話になる→起案やその他の業務に割く時間がなくなる。
あるいは事件丸投げで、こちらのインタビューに対するレスがない→事件の処理に時間が割かれて一向に進行しない→いつまでも事件を抱えていることになる。
後者の方は、物理的には一見ラクなように見えます。が、当事者に対する連絡に割く時間、本来であれば必要のない書面を起案、発送する手間、料金などなどコストがかさんでいくことは間違いありません。

そして、精神的な問題というのは、「困った相談者・依頼者ばかりでは弁護士のメンタルがやられる」というものです。

今までに何度か書いていますが、テラバヤシは、元法テラスのスタッフ弁護士です。
法テラスには、対応困難な相談者が多数いらっしゃいます。
その相手をしろ、と地方事務所の執行部や事務サイドのお偉いさんから言われたら、なかなか断り切れない、スタッフ弁護士はそういう立場にいます。

桜ヶ丘法律事務所の櫻井先生は、法テラスにはそういう立場に立たされるスタッフ弁護士のサポート体制があるとおっしゃっており、それは嘘ではありません。
が、実際には、個別特殊事案とはいえ、そういうサポートを受けられない、あるいは、スタッフ弁護士に対して意図的に「困ったちゃん案件」ばかりを押し付けられるというケースが、私が聞いただけでも複数ありました。
そして、精神的に追い詰められて休職したり、退職したりするケースも実際にいくつかありました(テラバヤシは大変に恵まれていて、対応困難な相談者の相手をするよう振られた場合には、地元の執行部の先生が必ず折に触れてサポートしてくれました。法テラス愛知の話ですが)。

これも櫻井先生が触れておられましたが、スタッフ弁護士の中には、パブリック系の事務所などしかるべき事務所でそのような対応困難者の件を経験してから赴任する人も少なくありません。そうじゃない事務所でようせいを受けていても(例えばワタシ)、赴任前にも研修などでそういう案件が多いことを知らされたり、扶助相談で経験したりできます。
それでも、先のような休職・退職を完全に防ぐことはできないのです。

いわんや、ごくごく普通の登録2,3年の若手弁護士をや。
間口を広げて、アンビリーバブルな相談者の対応に追われた結果、そのうちの少なくない人数がメンタルをやられてしまうのは、目に見えています。

「間口を絞るなんて非現実的。生きていくためには間口を広げるべき」
「対応困難な人を捌くのも弁護士の腕」
これは、ある程度ご経験を積んで酸いも甘いも知り尽くした中堅・ベテランの弁護士だからこそ言える発言です。
まだまだひよっこの弁護士にとっては、若手使い捨ての原理、一昔前のスポ根ものの精神論でしかありません。

若くして独立という道を選択せざるを得なかった弁護士は、簡単にリタイアしないために自分のメンタルの安定を保ち、かつ、せめて「自分の食い扶持」を稼ぐことを目指すのが最も現実的です。そのためには、広告をドバンドバン打って、法律相談無料にするなんて必要ない、いや、むしろ害悪ですらあるのではないか、そう思うのであります。

ちなみに、ド派手な広告を打って法律相談無料を謳って、種々様々な方々を法律相談や依頼に取り込んでいる事務所は、現在いくつもあると思います。
しかし、そういう事務所が、対応が困難な人を最後までお客として大切に扱っているかというと、必ずしもそういうわけではありません。
「それではうちでは対応しきれませんね」とあっさり辞任してしまいます。
もう少しはっきり言うと、相談者に多少のうつ病があったり、「先生に最初に1回15分あっただけだから先生と話をさしてくれ」と何回か頼んだだけで、このような対応をされるケースもあったりします。

実際、法テラス時代には、こうやってポイ捨てされてしまった方々の事件を引き継いだことも何回かありました。

普通の弁護士の感覚からすると、こういう対応は言語道断で許しがたいと思うでしょう。
しかし、これは経営という観点からすると、良し悪しは別として、リスク管理の1つの方法です(ちなみに私もひどいと思いますよ)。
コストパフォーマンスの低下や、弁護士・事務員のメンタル管理を目的とする、自衛の策だと思うのです。
こういう形でリスク管理ができるのは、①法律事務所の規模が大きく、②弁護士や事務員と相談者・依頼者の人的関係が濃くならないような仕組みをとっているケースに限られます。
いつでも相談者や依頼者とがっぷりよつになりがちな中小零細おひとり様弁護士には、こんなリスク管理はできません。

ダイソーとかキャンドゥとか、100均で買ったものの使い勝手が多少悪かったり、すぐに壊れたりしても、「ま、100円だから仕方ないよね」と多くの人は思うものです。
しかし、若手のおひとり様弁護士は100均ではいられません。
製造も販売も、苦情受付も返品処理も全部一人でしなければなりません。
自分一人でできる範囲を超えちゃうと、事務所の仕事は回らなくなり、精神的にもガタが来てしまうのです。

司法試験は、すんごく難しい試験です。
でもね、それを乗り越えてきたからと言って、何でもかんでもできて、何でもかんでも耐えらえれるってわけじゃないのです。
人間一人でできることなんて、ごくごく限られているのです。

というわけで、本日はこの辺で。











by terarinterarin | 2015-04-20 21:47 | Comments(0)

寺林智栄の弁護士としての日々や思いをつづります。


by terabayashi