色々とずさんな「覚せい剤使用」疑惑の人の逮捕の現場

ASKAさんが不起訴で釈放でされました。

その理由はまさかの嫌疑不十分です。検察側の発表によれば、どうやら、採尿手続の際に不備があり、提出されたものが本人の尿であることの立証ができないから、でした。
ASKAさんが言う通り、中にお茶が入っていたのかどうか真偽のほどは不明です。個人的には、いくらなんでもそれはないだろうと言いたいのですが、その点に関して正面から「それはない」というコメントすら発表できないほど、採尿や尿提出の段取りがボロンボロンだったということになります。

マスコミでは、前代未聞の不備みたいな言われ方をされていますが、実はこと覚せい剤の使用の捜査(逮捕や採尿、尿鑑定ひっくるめて)については、私たち弁護士の目から見ると、「こんなことがまかり通るのは怖い」と思うほど、不備あるいは不備的なものが結構な頻度で見受けられます。

具体例に関しては、園田寿弁護士が今までの実例をブログでお書きになっているので詳しくはそちらをご覧になっていただければ良いと思いますが、例えば、採尿後に警察官が一部を別なカップに移しちゃって、その際に他人の尿が混入されたことが否定できないとして証拠採用されなかった件などが紹介されています。

今回は、再鑑定用に尿を残していなかったことも立証不可と判断した理由のひとつのようですが、私がやった案件では、再鑑定用に尿を残していたケースは一度もありません。尿が少なくて…というのは、苦しい言い逃れで、日常的にある意味こういう不備が蔓延していると言っても過言ではないように思います。

問題があるのは採尿そのものに限られません。
覚せい剤使用者の身体拘束は、かなり暴力的に行われることも少なくありません。
例えば、路上で使用の疑惑がある人を拘束しようとする場合、まずは、職務質問とこれに付随する所持品検査から始まることも少なくありません。

職務質問や所持品検査は、知っている方も多いと思いますが、逮捕や差押と違って令状が発布されている状況下で行われるものではありません。強制的に何かをさせることができるものではないのです。

しかし、実際には、職務質問と言って何名もの警察官が容疑者を取り囲んで時には腕などをつかんで警察車両に引きずるようにして乗り込ませたり、本人に無断でカバンを開けて中をぶちまけたり、ポケットの中に手を突っ込んできたりというかなり乱暴な行為が行われていることも少なくないようです。

このようなやり方は、その後逮捕された人が使用を認めてしまった場合には表に出ることはほとんどありませんが、使用を否認したりする場合には、一連の捜査手続の違法という形で裁判上主張されることも少なくありません。

しかし、警察官は、自分たちがひどいことをやっているという自覚がなかったり、バレたらまずいという気持ちがあったりして、決して法廷で自分たちのやり方がまずかったということは認めません。
仮に多少力づくのことをやったとしても、覚せい剤使用という事件の特殊性(密行性、秘匿性と申しましょうか)から、裁判所も職務質問や所持品検査として行われた警察官の乱暴なやり口について問題視することはほとんどありません。

つまり、覚せい剤の捜査に関しては、職務質問から所持品検査と、採尿(その後のサンプルの保管についても個別に管理されているわけでは決してないという問題もありますが)に至るまで、ある意味警察官やりたい放題の状態だったといえましょう。

別にかばうわけではないのですが、刑事さんにしてみたら、覚せい剤の使用ですわなんかしなくちゃいけないという状況に至った時、現場はもうてんやわんやでしょうし、明らかに挙動がおかしい輩がいるのに、これをみすみす逃してしまったら、不祥事として世間に責め立てられるという、非常にお気の毒な立場にあるのではないかと推察されます。

で、そういう部分があるものだから(我々弁護士は置いとくとして)世間的にも裁判所的にもある程度のところを黙認していた結果、今回の「ASKA、まさかの不起訴」の事態を招いてしまったのだと思うのです。

今回、不起訴にした検察官の判断は懸命だったと私は思います。
採尿の状況は、写真に収められているはずで、公判請求して裁判になった際、ASKAさんが否認を継続していたら、その写真は弁護側の請求で開示され、弁護側から証拠として提出されることになることも予想されました。

実際にそうなったときに、公判に耐えられないものであったのかどうかは写真を見ていないのでわかりませんが、少なくとも今回の担当検察官は、上司とも協議して、耐えられない可能性が相当程度あるという判断をしたということなのでしょう。

今回のこの件は、なんでもありの覚せい剤使用の捜査をもっと慎重に適正に行うべきという方向に捜査機関をシフトさせるきっかけになるものだと思いますし、そうなることを願ってやみません。


今年の投稿は(よほどのことがない限り)おそらくこれが最後になると思われます。
今年もたくさんの方にお読みいただいて、ありがとうございました。
みなさま、良いお年をお迎えください。






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by terarinterarin | 2016-12-22 13:27 | Comments(0)

寺林智栄の弁護士としての日々や思いをつづります。


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