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アイドルの恋愛と契約の問題をちょっと真面目に考えて見た。

先日行われたAKB48総選挙で20位にランクインした須藤凛ヶ花さんが、結婚宣言したことが話題になっています。

巷では、恋愛禁止のアイドルグループでいきなりの結婚宣言とは何事か、今まで注ぎ込んだ金を返せなどという怒りの声が上がっています。
同じグループの現役メンバーやOGからも厳しい声や困惑する声が上がっており、夢を売るアイドルとしてのプロ意識と、恋愛や結婚の両立というのは難しいものだと改めて感じさせられます。

ネット上にも記事が上がっていますが、所属事務所がアイドルとの契約で恋愛禁止措置を講じても、無効になる可能性が高いと一般的には考えられています。
なぜなら、憲法で定められている幸福追求権や内心の自由を奪うことになってしまいかねないからです。
契約書にストレートに「甲は、乙が、契約期間中、他者と恋愛関係になることを禁止する」とか、「乙が他者と恋愛関係になったことが明らかになったときには、乙は甲に対して罰金として1回につき100万円を支払う」などと、ストレートに定めても無効でしょう。

とはいえ、アイドルが夢を売る仕事であることは今も昔も変わりません。男性アイドルも女性アイドルも、ファンの擬似的な恋愛の対象となっているわけですから、そのイメージと真逆のプライベートが流出したり、突然彼氏ができて公然と交際したりすることがまかり通ってしまったら、ファンが潮が引けるように去ってしまい、事務所に多大なる損失が出ることもあるわけです。
ビジネスのひとつとしてアイドルを売り出している事務所としては、「恋愛自由」というリスク管理が全くできない契約条件は、到底受け入れることはできないでしょう。

そもそも、芸能界では、未だ事務所と所属するタレントとの間で契約書が交わされること自体が少なく、契約内容が不明確ということも少なくないようです。
また、事務所と所属タレントとの契約の性質も曖昧不明確で、雇用契約だったり業務委託契約だったり、両者の性質が混合しているようなものだったりするようです(注:契約の法的な性質は契約書に付されている名称や用語だけで判断できるものではありません。業務委託契約という名目でも、実質は脱法的な雇用契約ということもあります。芸能事務所の場合、専属マネジメント契約などという表題になっていることが多いのでしょうか)。

しかし、雇用だろうが業務委託だろうが、契約の当事者には、契約上一定の「注意義務」というものが課されます(この注意義務というのも、法的には複数の概念があるのですが、ここではそれはちょっと置いておきます)。
具体的には、契約上必要な注意を欠いた場合にどんな事態が招かれるかを予見する義務、そしてその予見に基づいて結果を回避する措置を講じる義務のことです。
この注意義務を果たせなかった時、契約の当事者は、契約違反をしたということになるわけです。
タレント側には、自身の言動や振る舞いによって事務所に営業上の損失を与えないようにすべき注意義務が課されているでしょう。
そうであるにもかかわらず、不用意な発言や行動をして、例えば決まっていたCM契約がキャンセルになってしまったような場合には、注意義務違反すなわち契約違反に問われる場合もあるわけです。

契約違反があったとなると、次に問題になるのが、違反の責任をどうとってもらうか、ということです。

一般的には損害賠償責任と契約解除が考えられます。
損害賠償責任についていえば、例えば、先ほどのCM契約キャンセルによって会社が被った損失(会社の取り分など)を賠償するという話になるでしょう(ただ、実際にタレント側に支払う資力がないケースもあるでしょう。その場合には、たぶん、その分稼いで返せ、という話になるんでしょうね)。

契約解除については、そうそう簡単にはいきません。
雇用契約についてみると、使用者が労働者の契約義務違反を理由として契約を解除することは、俗にいう解雇になるわけですが、実務上は「解雇権濫用禁止の法理」というものがあり、よほど合理的な理由がない限り、解雇してはいけないとされています。
これは、一般の他の契約と同様の契約解除権を使用者に認めてしまうと、力関係で上に立つ使用者側が、気に入らない従業員を難癖つけてやめさせることがたやすくなってしまうからです。
しかも、懲戒解雇が認められるのは、契約書や就業規則に定められた懲戒解雇事由に該当する悪質な事情があった場合に限られるわけです。

これは、アイドルについても当然同じであって、純粋に雇用契約を事務所と締結しているアイドルは、簡単には解雇されませんし、まして懲戒解雇というわけにはいきません。
雇用契約ではなく、業務委託契約やこれに類する契約形態で事務所と契約しているアイドルについても、テラバヤシとしては、雇用に準じて考えられることになるのではないかと思うわけです。なぜなら、雇用だろうと業務委託だろうと、事務所との力関係に変わりはないと考えられるからです(念のため、アイドルです。大御所のタレントさんではありません)。
つまり、契約解除はよほど合理的な理由がない限りできないだろうと思うのであります。

がしかし、逆にいえば、事務所側は、「よほどの合理的な理由」があればアイドルの解雇、契約解除はしうるわけです。

「恋愛禁止ルール」を破って、男性と交際した、一緒の部屋にこもって朝まで出てこなかった。
こういう事態が発覚したAKBのメンバーは過去に数人いたようです。
ですが、事務所を解雇になった、AKBを辞めさせられたという話は聞いたことがありません(注:AKBのメンバーの多くはAKSという事務所に所属しているということなので、解雇、契約解除はイコールAKBを辞めさせられるということに繋がるかと思います)。これは、他人と恋愛関係に陥っただけでは、解雇や契約解除が認められる「よほどの合理的理由」には一般的に当たらないという判断からだろうと思われます。

では、突然の結婚宣言はどうなんでしょう?
事務所の誰にも直前まで話していない。
イメージとのギャップが大きすぎて、いくつかの仕事をキャンセルせざるを得ない。
やはり、恋愛とは違うのか?
相手を取っ替え引っ替え恋愛しているアイドルと前振りなしに「結婚します」と宣言するアイドルを比べて、後者の方を辞めさせる「合理的理由」なんてあるのか?
こう考えてみると、恋愛と結婚を本質的に分けて考えるのは難しいようにも思えます(ちなみにAKBでは、結婚は禁止されていないんだとか)。

40代以上の方は覚えていると思いますが、昔、フジテレビには伝説の子供向け番組「ピンポンパン」というものがありました。
ピンポンパンに出てくるお姉さんは、フジテレビの局アナでした(これがのちのアイドルアナ路線の走りだと思います)。
2代目か3代目かの酒井ゆきえお姉さんが、のちに対談でお話しされていたのですが、ピンポンパンのお姉さんをやっていた頃は、トイレに入るところを見られてはいけない(たぶん子供達にという意味だと思いますが)というルールになっていたそうです。

子供にトイレ入っているところを見られたので解雇となれば、当然そんな解雇は無効です。
が、アイドルの恋愛事情は、そう簡単に片付けられる問題ではなさそうです。


by terarinterarin | 2017-06-20 21:59 | Comments(0)

寺林智栄の弁護士としての日々や思いをつづります。


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