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この度、kindleで電子書籍を出版しました。

自分の弁護士や家事調停官としての経験から感じたことを中心に書いたものです。
また、2024年5月に成立した共同親権制度についても触れています。

価格は275円です(税込)。

多くの方に読んでほしいと思っています。

もしご興味ありましたらお手に取っていただけると嬉しいです。


# by terarinterarin | 2024-06-26 15:01 | Comments(1)
本年5月に共同親権制度を導入する民法改正が国会で可決され、成立しました。
施行は成立から2年以内ということなので、2026年からは実施されることになると思われます。

先日日弁連の委員会で、共同親権制度に関する勉強会があり、参加しました。
細かいことを言うと色々ありますが、かなりざっくりいうと、今回成立した共同親権制度のポイントは以下のとおりになるかと思います。

・未成年の子どもがいる夫婦は離婚するときに、いずれかの単独親権を選択することもできれば、共同親権を選択することもできる。
・ただし、DVや虐待が一方にあった場合には、裁判所の判断により他方の単独親権としなければならない。
・共同親権か単独親権か、当事者では話し合いがつかない場合には、裁判所が判断する。
・共同親権制度をとった場合、進学や転居については、双方の合意が必要であるが、日常的なことや急迫の事情(緊急手術とか)がある場合には、一方の判断で対応することができる。
・進学や転居等について双方の合意が取れない場合には、裁判所が判断する。

このような共同親権制度の説明を受けて、私は、「争いの種が増えただけで問題は何にも解決しない」と思いました。

まず、一般的に言われている懸念点として「DVや虐待の被害者が離婚しても被害を受け続ける」ということが挙げられますが、これはまさにその通りだと思います。
DVや虐待というのは、客観的証拠が不存在の場合が多く、巧妙な加害者ほど証拠が残らないようにします。
なので、裁判所が、DVや虐待を理由とする単独親権の申し出に対して、(従来通り)客観的証拠を重視した判断をするのであれば、実際に被害に遭ってきた人が全く救われないことになってしまいます。
今でさえ、調停委員の一部(少なくない一部)や裁判官は、DVや虐待の本質が何かという理解に乏しく、DVや虐待の主張をする当事者や弁護士に対して、「証拠もないくせに」「具体的なことも言えないくせに」(日常的にやられているといつ何があったかなんてわからなくなります)と冷たい対応をすることが結構あります。
これがそのまま共同親権制度発足以降も持ち込まれると、日本は、裁判所や調停委員がDVや虐待に加担するとんでもない国に成り下がることになると思います。

ぜひ、裁判官や調停委員には、DVや虐待の実態に即した「物の見方」ができるようになってほしいと思います。

逆に、共同親権のメリットとして、「離婚時の争いが減る」といわれていますが、今回の制度のつくりを見て、「そんなことなかろう」と笑いそうになりました。

そもそも、離婚をしようと思うということは、少なくとも一方には、相手に対する嫌悪感があることが普通であって、「離婚した後は関係を断ち切りたい」と考えて当たり前なのです。
にもかかわらず、共同親権になって、離婚後も子どものことで、進学や引っ越しの度に話し合いをしなければならなくなるなんて、まっぴらごめんなはずです。
加えて、両親とも「子どものことはかわいくて手放したくないけれど、相手と関わるのは金輪際ごめんです」というケースも多いはず。
となると、共同親権制度が始まれば、親権をめぐる争いは「共同親権vs単独親権」と「単独親権vs単独親権」の二本立てになるということになります。

夫婦ともども「共同親権で良いです」というパターンなんて、離婚しても夫に養育費とかきちんと支払わせたい妻とやる気がなくて結構どうでもいい夫のケース…というのが多くて、結局、共同親権にしたものの、夫がきちんと意思表示しないために、進学のことも決められない、養育費も滞るなんてことが起こるんだろうなと容易に推測されます。

また、裁判所の判断で無理くり共同親権とされた元夫婦は、子どもの進学等についてことごとくもめることになり、その度に裁判所に持ち込まれることになるわけです。
それまでは、子どもはどこの学校に行くかも決めることができず、大きな不利益を被ることになります。

少し前出しになりましたが、共同親権のメリットとして、もうひとつ、「養育費の確保ができやすく、面会交流の実施もされやすい」ということが挙げられていますが、眉唾だと思います。
親権を持っていようが持っていまいが、金にだらしない、子どもの養育に無関心な親は、この先も養育費なんて払わないでしょう。
そして、共同親権が実現しても、実際に子どもを監護するのはどちらか片方の親なのですから、その親がどうしても子どもを相手に会わせたくなければ会わせないでしょう。

いくら会う権利があるといっても「会わせない」という事実に勝てないのは、面会交流の根拠が「離婚した後も子どもに会う権利」から「親権」に格上げされても全く変わりません。

養育費や面会交流の問題と親権の問題は別だと、これまで再三に渡り言われていましたが、出来上がった制度を見てみても、そこはいかんともしがたいとしか言いようがありませんでした。

親権なんかなくても、子を思う親は養育費を払い、子を相手に会わせる。
親権があっても、子どものことなんてどうでもいい親や養育費を払わず、相手に子を会わせたくない親は会わせない。
ただそれだけのことです。

こんなしようもない共同親権制度、本当に2年後までに施行されるのでしょうか。
今からでも遅くないので、一回なかったことにした方が絶対いいと思いますけど。

そう思っているのは私だけではないはずです。

# by terarinterarin | 2024-06-18 11:22 | 家事事件 | Comments(0)
つい昨日のこと。
事務所の別な支店の弁護士から、とある情報提供がありました。

大阪のある弁護士が、債務整理の相談をとある会社に継続反復して対応させ、それによって多額の報酬を得ていた件で業務停止3か月の懲戒を受けたという情報でした。
ネットニュースのURLもついていました。

この件が情報提供されたのは、当事務所が債権回収業務をしており、委託を受けている債権の債務者に業務停止を受けている弁護士が代理人として介入している可能性があるからでした(調べたところ複数介入していました。)

この弁護士が所属しているのは、弁護士法人で、法人の方は懲戒請求されていませんでした。
私は、その法人のウェブサイトを検索してみました。

代表はなんと76期で、ウェブサイト上の写真を見ると、まだまだ初々しい、新人然とした表情をしていました。
にもかかわらず、こちらの弁護士法人、既に支店を出していることも判明。
そして、懲戒された所属弁護士は60期台でした。

懲戒された60期台の弁護士が繋がりがあった広告代理店か何かが入り込んで、訳も分からない新人弁護士が代表に祭り上げられ、あれよあれよという間に「拡大させられた」という構図が頭に浮かびました。

60期台の弁護士だけが、会社とパイプを持って債務整理をしていたとは考え難く(現に、この法人の主力業務に債務整理がありました)、近いうちに法人も懲戒されるのではないか…もうヤバい香りしかしないと、背筋が寒ーくなったのでありました。

最近、若手の弁護士が、急速に事務所を大きくして、債務整理を大規模にやっている件をいくつか目にしているのですが、どれもこれも似たような構図なのかなという気がしています。

稼がせてあげるよと広告会社やコンサルタントに入り込まれる→広告料やコンサルタント料の名目で多額の資金を持っていかれたうえ、「儲かるように事務所を動かしてあげる」という名目で、事務所業務全般を広告会社やコンサルに牛耳られるようになる→非弁提携で懲戒される頃には、すっかりお金を吸い上げられて事務所はすっからかん

つまり、ミネルヴァの件は、決して特殊なものではなく、弁護士業界に蔓延する「食い物にされる法律事務所」問題の氷山の一角でしかないのではないか…そんな風に思えてなりません。

といっても、こういうのは、首都圏とか大阪とか、弁護士人口が多いところだけの話だろう…と思う方もいるかもしれませんが、私は、札幌でも、とある業界と癒着して仕事のやり取りをしているとしか思えない「コラボ」事務所のウェブサイトを見てしまったのでありました。
あれは、99%、提携先になにがしか払っている…(名前を出すとこちらが懲戒請求されかねないので、ここは伏せたいと思います)

最近の若い弁護士を見ていると、ある程度のお給料を払ってくれる事務所に入ったり、企業に入ってインハウスロイヤーになる地道系と、「一旗揚げて金儲けしたい」系と極端に分かれるように見受けられます(面白いことをやってやろうという「ベンチャー」系もいますが)。

広告会社とか胡散臭いコンサルタントとかに入り込まれるのは後者の方で、弁護士倫理とか全然身についていないうちに騙されて吸い上げられていくのが、もうお決まりのコース化しているようにしか思えません。

確かに、我が業界は、普通にやってると儲からない業界になったと思います(私は儲からない弁護士です)。
だけど、普通にやっていれば食うに困らない業界であることは変わりないと思っています。

弁護士になって儲けたい、儲かりたいと思い過ぎないのが良いのではないでしょうか。
確かに今は弁護士になった時点で数百万の借金抱えている人も少なくないでしょうが、地道に返せばいいんですよ、そんなもの…

なんだか深い闇が実は自分の周りに蔓延しているのではないか、そんな恐怖心を抱いてしまう、昨今の弁護士業界だったりするのでした。




# by terarinterarin | 2024-05-21 15:29 | Comments(0)
前回投稿からちょうど3か月経ちました。
大変ご無沙汰しております。

札幌弁護士会に登録替えした後、1年以上刑事事件の待機名簿に登録していませんでしたが、今年の2月に登録し、その後2件の刑事事件を担当しました。

まだたった2件ですが、東京と札幌の身体拘束に対する実務の違いに、若干戸惑って?おります。

守秘義務があるのであまり詳しくは書けませんが、1件目は、知的障害と発達障害がある幼い子どもに対する親による傷害事件でした。
配偶者や他の子供にも知的障害や発達障害があり、様々な意味で家庭生活が成り立っておらず、社会福祉法人や児童相談所が介入して、何とか生活をぎりぎり保てているような状況の中で起こった事件でした。

勾留を阻止する活動をすることもできませんでしたし、私の感覚では、延長満期まで勾留され、その後は略式になるか、あるいは支払い能力がないのであえて正式裁判請求されて、未決勾留日数の算入により罰金支払い済みとみなして判決後に釈放…という流れかなと考えておりました。

そうしたところ、延長後の勾留は7日間で、略式起訴後いったん釈放されたようでした。

この事件で、勾留が延長7日間しか認められないというのが私には新鮮でした。
事案は単純でしたが、被害者は知的障害と発達障害がある幼い子どもで、事情聴取にも特段の配慮が必要でしたし、母親からの事情聴取も難航を極めそうな感じでした。
なので、おいそれとは捜査が進まない…という理由で、東京なら間違いなく延長後10日間フルに勾留が認められそうな案件だったのです。

それを7日で終了させて、略式起訴していったんは釈放(労役場留置が待っているのはほぼ確実ですが)というのは、私にはなかなか驚きでした(なお、私としては不起訴でよいと思う案件だったので、その旨の意見書は提出しました)。

次に昨日来た案件は、泥酔した男性が飲み屋で起こした本当に軽微な暴行事件でした。
当番の出動要請があって接見して話を聞かされた時、勾留請求は却下される可能性が結構高いけれど、勾留請求まではいくだろうと思っていました。
そこで、勾留請求をしないように求める検察官宛の意見書と勾留請求の却下を求める裁判官宛の意見書を作成すべく(本丸は後者だと思っていました)、接見後、私はえっちらおっちら、仕事関係者のもとに行って身元引受書をもらいました。
そして、それを意見書に添付して、今日の朝イチで張り切って札幌地検に提出しに行ったのです。

そうしたら、本日の送検予定のものに該当がない、したがって意見書は受け取れないと、係の事務官から言われました。
私は驚いて警察署に電話し、捜査担当者に聞いたところ、送検せずに本日釈放すると言われたのでした。

私は二度びっくりでした。
確かに私の眼から見たら、「酔っぱらいのちょっとしたおイタ」程度で、こんなもの勾留して罰金まで行ったら正気の沙汰じゃないというものでした。

しかし、東京の身体拘束の実務の感覚では、警察が送検せずに身体釈放するなんてありえませんでした。
逮捕したらとりあえず送検、送検されたらとりあえず勾留請求、それがザ・東京の身体拘束実務でした。

なぜ、東京と札幌でこんなに違うのだ?と考えたのですが、ひとつには、人口の違い→刑事事件の数の違い、ヤバい人の人口の違いというのが挙げられるのかもしれません。
とりあえず、ヤバそうな人は許されるかぎりぶち込んどけという感覚が、何でもありの街東京にはあって、政令指定都市とはいえ、全然牧歌的で所詮地方の街に過ぎない札幌にはないということなのかも。

そしてもうひとつ、札幌の弁護士の皆さん方が、これまで一生懸命身体拘束を争ってきたことの成果として、今の状況があるのかもしれないなとも思うのです。

確かに東京には著名な刑事弁護人がたくさんいます。
一方、札幌は、会ぐるみで地道にコツコツと捜査機関とこれまで戦ってきたのでしょう。その結果、「むやみやたらと身体拘束できない」という感覚が、捜査機関にも根付いたし、裁判所の勾留実務にも表れているような気もしています(もちろん札幌にも刑事弁護の大御所は何人もいます)。

私は、「まあ札幌では新人だけど、ハードな東京でやってきたから」と自負していたところがありましたが、もうイチから学ぶつもりで、ひとつひとつの刑事事件に当たって行かねばならない気がしています。

来月も待機日があるので、その時にはもう少し札幌的な感覚で、刑事事件に対応したいと思うのでありました。

# by terarinterarin | 2024-04-26 13:19 | 刑事事件 | Comments(0)
昨日、京アニ事件の判決が出ました。

大方の予想通りだったかもしれませんが、死刑判決でした。
判決言い渡しでは、まず裁判長が「有罪判決です」と宣告し、主文を後回しにしました。
しかし、ほどなくして、責任能力ありと宣告されたことから、主文を聞かなくても、途中で死刑であることがわかりました(主文を後回しにした意味があったのか疑問です)。

昨日の判決報道を見て感じたことがいくつかあったので、今日はその点についてつらつらと書いていきたいと思います。

まず、死刑求刑が明らかな事件については、裁判員裁判は不適だと感じました。

というのも、判決後の記者会見で、女性の裁判員が「被害者や遺族のことを思うと今でも涙が出てくる」と言ったのです。
これは明らかに、被害者や遺族に肩入れして裁判に臨んだことを告白するものです。
このように一方当事者?に肩入れして、不公正不公平な審理をしていた人が、裁判員の中にいたのです。

もちろん裁判官だって人の子です。
京アニ事件のように凄惨な事件について、被害者に思いをいたすこともあるかもしれません。
しかし、そこはそれ、職業的に訓練されているので、一定程度の節度は保つでしょうし、判決後に口が裂けたって公にこんなことは言わないでしょう。

報道された判決理由の中には、くどいほど、被害者や遺族の心情について述べているくだりがありました。こんな抒情的な死刑判決が許されるのかと耳を疑ったくらいでした。
このことは、先の女性だけでなく、他にも被害者に肩入れした不公正不公平な姿勢で裁判に臨んでいた裁判員がいたことを示していると思います。

責任能力の判断も裁判員はまともにできていたのか、大いに疑問です。
というのも、他の裁判員が「被告人が判決の内容を理解しているとは思えない」と記者会見で述べたのです。

それはまさに責任能力の問題ではないでしょうか。
こう感じたのに、責任能力ありという判断をしたのでしょうか。
疑問を持たなかったのでしょうか?

裁判前に、裁判官は責任能力について説明していることでしょう。おそらく弁護人も冒頭陳述や弁論で述べていることと思います。
しかし、それでも理解できていない人が少なからず含まれていたということです。
そのために「判決を理解しているように見えない人」に対して死刑判決を出してしまったのです。

死刑の執行方法について裁判員が知識を持っていたかどうかも気になります。
おそらく絞首刑であることくらいは知っていたと思いますが、実際にどのように行われているのか知っている人は果たしてどれほどいたでしょうか。

私は、死刑自体が残虐な刑罰に当たり違憲だと思っていますが、百歩譲って死刑自体が合憲だとしても、現在の執行方法は違憲だと考えています。

前近代的な床抜け式の首つりで、執行途中に首の骨が折れることもあります。一度の執行で死にきれず、苦痛の中、医師に別な措置を施されて絶命する人もいます。

こんな知識もない人たちが、36人殺したからあなた死んでくださいと言ったのだとしたら、それは集団リンチと同じでしょう。
正当性ある判決と言えるのか、はなはだ疑問だと思います。

先ほども述べたように、私は死刑求刑が明らかな事件については、裁判員裁判はやめるべきだと思いますが、もし続けるのだとしたら、審理前に死刑の実際の執行方法を裁判員にレクチャーすべきだと思います。
そうじゃないとフェアな判断はできないのではないかと思います。

本件、控訴するのでしょうか。気になります。もちろん私がこうすべきなどと言える立場にあるわけではありませんが。

今はただ、無知な権限者相手に極めて難しい戦いを強いられてきた弁護人をねぎらいたいと思います。

本当にお疲れ様でした。

追記 2024.1.26
控訴したとの報道に接しました。

# by terarinterarin | 2024-01-26 15:19 | 刑事事件 | Comments(0)

寺林智栄の弁護士としての日々や思いをつづります。


by terabayashi