法テラスについて書かせてもらうよ。の補足。
2015年 07月 06日
中村元弥先生がシェアしてくださったからでしょうか。なんだかとんでもないビューの数になっていました。
絶歌の感想文よりも遥かに伸びていて、書いた本人もちょっとびっくりという状況です。
で、今日は今少し時間が空いたので、読み返して自分で気になったことや、(中村先生のシェアも含めて)頂いたコメントなどをもとに、少し補足などさせてもらうことにしました。
1 なんで今更古巣の批判をするのか。
法テラスをやめたのは、2013年3月末のことです。法テラス東京に配属されて1年3か月で退職しました。退職してから既に2年以上が経過しています。
どうして今更法テラスの批判を始めたのか、と、不思議に思っている方も多々いるかなあと何となく感じました。
直接的なきっかけは、以前からライター登録していた「シェアしたくなる法律相談所」運営者から、「法テラスの問題について書いてほしい」という依頼を受けたことにあります。
ちょうど依頼される少し前に、刑裁サイ太さんが法テラスについて批判的なことをツイートされていて、それに同調するぶら下がりも結構あった。そこに注目したシェア法の運営者が、法テラス勤務歴のあるテラバヤシに書いてほしいと依頼してきたわけです。
ただ、法テラスの仕組みというのは意外に一般の方はご存じなくて(シェア法の方もご存じなかった)、字数制限がある中で法テラスの仕組みがざっくりわかるようなことも書きつつ、それも踏まえた問題点も書かなくちゃいけないということで、テラバヤシから見ると、非常に浅い「サラーッ」としたことしか書けなかった。
でも、自分が辞めた経緯もある。
辞めた後に知った話の中で、耳を疑うようなものもある。
ある意味中途半端に書いただけに消化不良な思いもありました。
また、うまく言えないのですが、いろんな人から法テラス内部の話を伝えきくうちに、法テラスが「中身は空っぽだけどやたら影響力だけは大きい」化け物みたいな存在にどんどんなっていくような気がして、危機意識を感じるようになったということもあります。
そこで、今更ではありますが、自分に書けることは書こう、そう思ってやり始めたというところです。
2 なんでスタッフ時代にきちんとケンカしなかったのか。
そんなに法テラス東京に不満があったなら、「その方向性はおかしい」ということをどうして内部で訴えなかったのか、昨日書いたような出来事があったときにどうして文句を言わなかったのかと思われた方もいたと思います。
実際、法テラス東京で明確な「福祉との連携」というビジョンが立てられる前に、法テラスは刑事弁護でも民事でも「福祉と連携して解決しましょう」みたいな雰囲気は出ていました。
仲間内(いや、もちっと広いか)では、テラバヤシは「連携連携ってバカみたい」(あたかも福祉と連携すりゃ事態が何でも解決するかのような幻想にスタッフの一部が陥っているように見えたことに対する揶揄)と言っていたので、テラバヤシの連携嫌いは、スタッフの中では、そこそこ知られていたのではないかと思います。
法テラス東京の「福祉との連携」は本部ぐるみで始まった動きであるらしく、その方針が決まってから、それ用のスタッフ弁護士の人事もなされました。
定期的にそのビジョンをどう動かしていくかという話し合いも各所となされるようになり、もう私一人が何か言ったところでどうにかなる話でもないなという印象でした。
とはいえ、法テラス東京とか本部の上の方から、「今後法テラス東京法律事務所は福祉との連携を中心に据えた事務所に転換していくから」という話をきちんと伝えられた記憶は、少なくとも私にはありません。
なんか、知らないうちに決められていて、ずるずるずるずる動いていき、当時現場にいたスタッフ弁護士の意向すら、きちんと確認されていなかったという印象です。
実は、福祉との連携の動きが出る前に、国選の謄写費用の支出やその他もろもろの件で、法テラス東京には少し嫌気がさしているところがありました。
そんなこんなで、私自身に闘う気が薄れていました。今にしてみれば、よくなかったのかもしれません。
また、昨日書いた2つのエピソードについてですが、「施設の内紛に巻き込まれるから関わらないほうがいい」、「刑事施設被収容者(こちらの表記が正しいので今日からこちらに変えます)の相談は負担が重いから他の公設事務所に振ってもらおう」というスタッフの発言は、まるっきり善意でなされたものでした。
これがあからさまに「大変だからやりたくない」「こんな仕事押し付けるな」という語調のものであれば、「ふざけんのもいい加減にしろ」と楯突いたと思います。
まるっきり善意だっただけに、もう価値観が全然違うところにあるんだなと思ってしまい、「言ったところで無駄」という結論になったわけです。
3 法テラスと刑事施設被収容者との関係
中村先生のリンクシェアに対するコメントの中で「法テラスは刑事施設被収容者に元から冷たかった」というものがあり、その点が気になったので、追記したいと思います。
私がスタッフをやっていたころは、各地で刑事施設被収容者の法律相談に臨んでいるスタッフが相当数いました。
何のフォローもなくそんな案件ばかりを地方事務所からやらされて、つぶれてしまった弁護士もいました。
メーリングリストでも対応方法に関する相談や回答がよく流れてきました。
私自身は、法テラス愛知にいた当時は、被収容者から依頼を受けた案件を5件ほど担当したことがあります。
今も、聞くところによれば、受ける人はきちんと受けているようです。
(ただ、これも今まで何度も言っていることなのですが、弁護士登録数年のぺエペエの弁護士が何のフォローもなくできるような仕事でないことは事実なので、法テラスサイドは刑事施設被収容者相談をスタッフに振るのであれば、しかるべくフォローの体制をとってもらいたいと考えています。)
個人的には、民事法律扶助の援助決定の審査が、特に東京の場合、刑事施設被収容者に関しては厳しいのではないか、と感じました。
法テラス愛知でやっていたころは、必要書類がきちんとそろっていれば、援助要件を満たす限り、援助決定は出ていたと思います。
死刑確定者の方の事件も受けたことがありますが、特に厳しいという印象はありませんでした。
しかし、法テラス東京では、個人的には非常に厳しかったという印象です。
昨日お話した死刑確定者の方の件ですが、とある先輩弁護士に相談したところ「一人でやってはいけない」と言われたので、元スタッフ弁護士の同期の友人二人と共同でやることにしました。
法律扶助の申請を出しても、なかなか審査はおりませんでした。
刑事施設被収容者の場合、民事法律扶助の援助決定が出されたとしても法テラスの立替金(弁護士費用)の償還は契約時には猶予となり、最終的には免除となることが圧倒的に多いといえます(刑期が長ければ、事件終了時も償還できる資力がないということになりますので)。それはもはや所与の前提のはず(とまでは職員の方は言えないとは思いますが)。
ですが、この件では、家族に償還してもらうことはできないのか、などと依頼者本人に問合せが行っていたようなのです。
もしかすると審査委員の意向などもあったかもしれませんが、愛知では聞いたことがない話だったので、かなり驚いたのを覚えています。
犯罪に基づく不法行為の損害賠償請求などについては、要件上、民事法律扶助の援助決定が出せないことになっています。
そのため、刑事裁判で判決が出た後の損害賠償命令事件では、弁護人が民事法律扶助を利用して代理人に就任できない事態となっています。誠意ある弁護人は、多くの場合、手弁当での対応を強いられることとなります。
この規定の影響なんですかね?関係ないと思うんですがね?
とまあ、外部の人から見ると、随分ぶっちゃけてひどいこと書いてるな、などと思うかもしれません。
が、実際には、もっともっとひどい話や個人的に許し難いと思う話はいろいろあります。
ただ、書いてしまうとネタ元の人に迷惑がかかるかもしれないし、相当数の人が人物を特定できることになって個人攻撃がされてしまう恐れがあるようなことについては、書くつもりはありません。
法テラスの必要性とか、今後どうあるべきかということについては、ざっくりしたことは考えているけれども、具体的にこれが正しいと思うというところまではまだ行きついていません。
ただ、スタッフ弁護士、法律事務所については、縮小するのが正しい方向性だろうと思います。
今回はいったんこの話題は閉めるつもりです。
が、また何かの機会に、書くかも…
図らずも拙ブログをご紹介いただき、ありがとうございます。
国選報酬の件について直接コメントをいただいておりませんでした。せっかくの機会ですので貴見をご披露いただければ幸いです。
テラバヤシです。その節は大変失礼いたしました。
先生のブログですが、反語的ユーモアにあふれていることはわかったのですが、法テラスというところは(正しく言うと法務省などの関係省庁でしょうか)、「使えるものは何でも使う」というひどいところで、逆手をとられかねないという危機感がありました。
とはいえ、アプローチの仕方は、今にして思えば大変失礼だったかと思います。ご迷惑おかけしました。
さて、国選報酬に関してですが、
1 国選報酬規程を改定する
2 報酬算定を各地方事務所の国選化の管轄に戻す
ということが必要ではないかと思います。
1についてですが、サイ太さんや他の多数の弁護士が指摘している通り、実質的には報酬加算事由であるにも拘らず形式がずれているために加算対象にならないという事情が多々あります。
この点については、裁量で加算対象にすべきだというご意見も根強いのですが、一方で、裁量を許すと法テラスに弁護活動に対する介入を許すことになるという意見もあり、これについても傾聴すべきところがあると個人的には思っています。
そこで、報酬加算事由として実質的に同列のものは規程上ある程度明記して、法テラスの裁量の幅を減らしつつも、不公平が出ない算定方法に改定すべきではないかと考えております。
とはいえ、例示にも限界があります。
そこで、2が必要になると思います。
数年前から国選の報酬算定は東京の報酬算定センターが一括して行うようになりました。
このシステムが、さらに報酬算定を硬直化させたのではないかと考えております(実際、苦情が飛躍的に多くなったのもこの時以降と感じております)。
各地方事務所の国選課が算定をしていたときには、事実上、対象となる弁護士と法テラス側が協議をして加算することもあったようです。今よりは柔軟な取り扱いがなされていたみたいです(最後に決めるのは担当副所長たる弁護士ということになります)。
そういう運用に戻すことにより、報酬規程のブラックホールに落ちたケースをいくらか拾い上げることは可能なのではないでしょうか。
まあ、法テラスがここまでやるようになるには相当時間がかかると思います…
誤解が解けたようで安心いたしました。
もっとも,あのブログ記事はちょっと悪ノリしすぎた面はあったかなと思っていましたので,ご指摘の点は貴重なご意見として受け止めたいと思います。
かえってご迷惑をおかけいたしました。
国選報酬を改善するため2点挙げていただきました。
報酬基準そのものの改定は必須であるといえると思います。
当職は,国選弁護報酬の基準については,「弁護活動を評価する」という観点ではなく,「弁護活動にインセンティブを与える」という観点で定められるべきではないかと考えております。
報酬センターについては,盲点でした。
裁量でゆる~い認定ができれば,多くの不都合は解消できるかと思います。
もっとも,現在審議中の刑訴法改正によって勾留事件全件が被疑者国選対象となると,事件数は更に増えることとなり,より集中管理すべきという状況になってしまう懸念があります。
いずれにしても難しい問題です。
今後もぜひ法テラスの内部事情を教えていただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
ご意見ありがとうございます。
個人的には2については法テラスが首を縦におろさないだろうと思っていますが、1については我々が地道な活動を続けていくことによって実現可能ではないかと思います。
そろそろ意見集約して規程の改正を具体的に要望すべき時期ではないかと思うのですが、どうなのでしょう。
最近日弁連の刑事弁護センターの活動から離れてしまっているので、そういう議論が出ているのかどうか、ちょっとわかりません。
ご存知の方がいればご教示いただきたいと思っています。
こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。