債務整理について思うこと@新宿事務所事件から

司法書士法人新宿事務所がやっちゃいました。
と言ったら怒られるんでしょうか、委任状偽造問題。

新宿事務所の債務整理については、様々事件性がありそうな問題がささやかれており、同業者や司法書士の先生方の間でも、今頃来ましたか、なんて思った方が少なくなかったかもしれません。

債務整理を大規模にやろうとする法律事務所、司法書士事務所というのは、過払金が返ってくる、家族に内緒でできる、を必ずと言っていいほど謳い文句にしています(法律事務所は、かつてそうだった、といったほうが正しいでしょうか。今日日、債務整理のみで売っている法律事務所はほとんど聞きません)。

過払い金が返ってくる…という謳い文句には「かも」も含めて、非常に大きな違和感を覚えます。
出資法や貸金業法の改正に合わせて消費者金融各社の貸金の利率が低く設定され始め、徐々に徐々に戻ってくる過払い金の金額は少なくなり、次第に過払い金が発生すること自体、なくなっていきました。

弁護士登録をして5年目くらいまでは、豪快に過払い金を取り返して、債務が残っている消費者金融会社に返済をして、法テラスの費用を償還して余ったお金を本人にお返しする、ということもありました。が、その後は、私があまり債務整理をやっていないこともありますが、取り返して返してあまりある、という債務整理にお目にかかったことは、個人的にはありません。

過払いや債務整理については、それに関わる心構えを、新人の頃にみっちり教え込まれました。

消費者金融会社との和解には妥協するな、どうせ訴訟になったら全額取れるのだ。
この教えは、最初に所属した事務所のとあるパートナーの教えでした。
端数を切るくらいはいいと言われましたが、それは原則10の位、せいぜい100の位の意味でした。
少しでも多く依頼者の手元に返すことを考えれば、当たり前の教えだったかなと、今にしてみれば思います。

法テラスのスタッフ弁護士の研修では、自己破産事件での心構えを教わりました。
大切なのは、自己破産の手続が終了した後に、その人が経済的に自立できることだ。
破産の原因がその人ではなく、家族にある場合も少なくない。
そういう場合には、家族を巻き込まないとまたその人は破産することになる。
まだ、今よりもなんぼかピュアだった新人弁護士だった頃のテラバヤシは、素直にこれを実践しようとしました。

確かに一度債務整理をしてしまうと、ほとんどのケースでその人はブラックリストに載ってしまうので、まともな?金貸しからお金を借りることは、長い間できなくなります。経済的に自立できなければ、ヤミ金に手を出す事態に陥ります。

そうならないようにするために、時には家族も入れて話し合い、1ヶ月に1度家計簿を持参して事務所に来てもらい、預金通帳の謎な入出金については、結構細かく確認したりして、満を持して自己破産を申し立てていました。特に法テラス愛知にいた頃は。

もちろん、家族を巻き込む、内緒にするというのは、当事者が置かれている状況次第ですので、必ずオープンにするというわけではありませんですし、守秘義務の問題もあります。
ですので、家族にオープンにすることを大前提にしていたわけではありませんが、これは話した方がいい、協力がないと同じことになると考えた場合には、依頼者本人に、『ご家族に話した方がいいと思います』と提案していました。

自己破産の申し立ての場合、手持ちの資産が99万円を超えてしまうと、超えた部分は債務を免責する代わりに処分しなければならないのが原則です。
過払いが返って来た結果、資産が99万円を超えているケースでは、先に滞納税金を支払うなど、合法的に取れる手段をとって、破産が終了した後に依頼者の手元に残るお金
が多くなるよう考えることもしばしばでした。

今や、債務整理は自己破産も含めて、ルーティンでできてかつそれなりの収益が見込める仕事、という位置付けになってしまったような気がします。
弁護士も司法書士も、債務整理事件についても、依頼者の利益を図るという事件処理の根本が働くことを意識できなくなっているのではないかな、とそう思います。

新宿事務所の件は極端ですけれど、例えば過払い金返還の和解交渉にしたって、適当に8割で和解、とか、依頼者に確認も取らずに決めてしまっている弁護士がかなり多いのではないでしょうか。
普通の民事事件であれば、この金額で和解していいかということを依頼者に確認する弁護士が多いと思うのですが、債務整理となると、途端にそういう意識が働かなくなるのは、やはり、債務整理=ルーティンの仕事という刷り込みが強く働いているからではないかと思うのです。

新宿事務所の事件は、新宿事務所だけの問題ではない。
債務整理に法律家がどう関わるべきかを突きつけられる、そんな事件だったように思います。


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Commented by 青空 at 2015-11-06 14:49 x
こんにちは。
>今日日、債務整理のみで売っている法律事務所はほとんど聞きません
母とテレビやラジオを聞いていて、「過払いがあるか、資料がなくても5分で分かります!」「(当社平均)○○○万円の過払い金が戻っています!」なんていうCMがよく流れると、「どういうシステムで分かるのかしら」「平均三ケタ万円なんてすごいわね。うちにもなかったかしら」(←それアカンやつや)という会話になっていたのですが……テレビなんかだと、まだまだ過払いはたくさんあるのねぇと思ってましたけれど、本当は違うのですね。

私もそういう事務所さんはほとんど事務員の方に仕事をさせると聞いていたのですが、本来はとても大変な作業なのですね(そういう表現しかできなくてすみません)。
Commented by terarinterarin at 2015-11-22 00:20
> 青空さん

東京辺りだとCMで債務整理の宣伝をしているのは、ほとんど司法書士事務所さんという印象です。法務事務所というと司法書士の先生の事務所ですので、ご注意くださいね。

地方の方に行くとまだ過払いの案件はあるのかもしれません。が、一時期に比べて激減しているのは間違いありません。
過払いが出るというのは、あくまで誘い文句の一つです。実際には破産しなければならないケースも少なくないというのが現状かと思います。
by terarinterarin | 2015-11-01 21:03 | Comments(2)

寺林智栄の弁護士としての日々や思いをつづります。ウェブサイト https://attorneyterabayashi.simdif.com  「弁護士テラバヤシ」でツイッターもやっています。


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