備えよ、おひとり様事務所。
2015年 12月 10日
そのうち、最後に接した訃報は、本当にびっくりで、本当に口惜しいものでした。
テラバヤシが弁護士になった当初、法テラス愛知赴任前にいた事務所、その隣のビルに法律事務所を開いていたとある先生が、8月末に亡くなられたのでした。
50代前半の男性の先生でした。
明るく楽しく、決して偉ぶらない、後年は被災地の復興に熱心に取り組んでいらした先生でした。
テラバヤシのFBのくだらない投稿を面白がって、さらに面白いコメントをつけてくださるような、そんな先生でした。
もともと慢性的な疾患をお持ちでした。名古屋から東京に戻り、久しぶりにお会いした際には、かなりお痩せになっていましたが、その後もパワフルに活動されていたので、それほど健康面での問題はないのだと思っておりました。
お亡くなりになったのは、突然のことでした。
先生の事務所は、二人の事務員さんと運営していました。イソ弁やノキ弁、共同経営者はいませんでした。
亡くなった後、継続中の事件の処理、事務所閉鎖のための対応で、当然てんやわんやすることとなりました。
東京弁護士会には、いくつかの派閥があり(どこでも大抵そうなんでしょうが)、私はその先生と同じ派閥に所属していました。
その派閥のメーリングリストから、事件の引き受け手や事務所閉鎖の後始末などは、先生とゆかりが深かった別の弁護士らが有志となって対応していたことを、なんとなく知っておりました。
先日、愛知赴任前に所属していた事務所のボスの呼びかけで、近隣の事務所所属の弁護士や事務員さん(元近隣の事務所所属の皆さんも含む)を集めて、亡くなった先生を偲ぶ会が営まれました。テラバヤシも呼んでもらいました。
亡くなられた先生の事務所で働いていた事務員さんも、もちろんいらっしゃっていました。
その時に初めて、先生が亡くなられたときの状況や、その後テラバヤシの前事務所が、事務所閉鎖のための諸手続のためにかなり尽力していたことを知りました(口の悪い酔っぱらいのボスですが、そういう面倒見の良さは相変わらずだなあと変に感心してしまいました)。
事務処理はあともう少し残っているそうで、事務員の方々は、今でもテラバヤシの前事務所の一角で、その作業を行っているとのことです。
事務所の前のココ一番屋で週14回食事をして、遂には店で腸閉そくを起こした、などの武勇伝?もあり、笑いが絶えない偲ぶ会でした。
が、テラバヤシがつきつけられた現実がありました。
それは、テラバヤシがある日突然死んだりしたら、きっと、この先生の時よりも、もっともっともっともっと、大変なことになるであろう、ということです。
なんせ、正真正銘ひとりでやっている、「ぼっち事務所」。
他の弁護士と一緒にやっている事件以外、事件の内容や進行状況をテラバヤシ以外に把握してくれている人は誰もいません。
「事務所に来ないぞ」「裁判所に行ってないぞ」と、早々と異変に気が付いて気を効かせて生存確認等をしてくれる人も、いないわけで。
そうすると、依頼者にかける迷惑は、それこそ「ハンパない」ことになります。
自宅や事務所で孤独死したりしたら…と思うと、「こりゃ、ちょっと対策せなあかんな…」という気になりました。
実際、偲ぶ会の席では、参加された先生方の何人かが、そんなテラバヤシの状況を非常に心配して、「この際、ノキ弁でも置いたらどうだ」「事務員さん一人くらい雇った方がいいんじゃないか」などとアドバイスをくださいました。
がしかし、まだまだ事務員さんを雇って、きちんと給料が払えるだけの自信がないこのワタシ…「やっぱり収益上がんないから解雇~」なんてできるわけないですから。ノキ弁というシステムそのものも、ちょっとどうなのかと思ってますし、正直。
で、そうすると、おひとり様事務所を当面運営するという前提で、万が一の時に、極力依頼者も含めて仕事関係者にかける迷惑を縮小するための「備え」を施しておかなくてはいけない、となるわけであります。
例えば、倒れた時のために身分証なんかと一緒に「私が倒れたり死んだりしたときには、すぐにここに連絡してください」というメモ書きを一緒に持ち歩いておく。
故郷にいる家族には、テラバヤシ死亡、倒れるなどの一報が入った時には、葬式の手配なんぞ後回しでいいので、とりあえずここに連絡しろという同業者の連絡先を預けておく(その前に、「こうなったら、そちらの事務所に連絡してもらうことにするから」というネゴをしておく)。
そして、業務引継のための覚書みたいなものをきちんと事務所のわかりやすいところに置いておく。
事務的な段取りは、おそらくこれくらいで何とかなると思うのですが(そうかな?)、こんなことよりも先に、最も欠かせないことがあると思われます。
それは、日ごろから、きちんと同業者とつながりを持っておくということです(注:いやいや、事務処理押し付けるために皆さんにいい顔しとくって意味ではないですよ!!)。
この度亡くなった先生の件、有志の先生方が、それこそ手弁当で、事件を引き受け、後処理を引き受け、円滑に事務所を閉鎖できるように運んで行ったのは、何よりこの先生が、最初に書いたように、様々な弁護士と関わり、様々な活動に尽力し、弁護士同士の繋がりを大切にしていたから、です。
こういう繋がりがなければ、おそらく先生が残していった遺産は、深刻なカオスとなり、わずか4か月程度で収束が見える、なんてことにはなりえなかったと思うのです。
6月には、テラバヤシが法テラス愛知にいた時代にお世話になっていた副所長の先生がお亡くなりになられました。
その先生が亡くなられたときも、人との関わり、弁護士同士の関わりってつくづく大切だなあと思いました。
今回も、この時とは違う意味合いではありますが(注:この件もブログで触れておりますので、ご興味ある方は、6月頃のブログをほじくり返してご覧になってください)、やっぱり、この仕事、人とのつながりは欠かせないと痛感したのであります。
で、「同業者ときちんとつながっておく」というのは、複数の弁護士で事務所をやっているケースよりも、おひとり様で事務所をやっているテラバヤシのような弁護士の方が、遥かに意識しなければならないことです。
テラバヤシも最近特にそうなのですが、おひとり様事務所は事務所の切り盛りをすべて一人でしなければならないので、知らず知らずのうちに気持ちが「事件をどう回すか」「仕事をどう切り盛りしていくか」ということに集中しやすくなるのです。内向きになってしまうわけです。
で、飲み会キャンセル、委員会に出なくなる(さぼっている委員会の皆様方、本当にごめんなさい。あ、ブログ書いてる暇あったら委員会に出ろとか突っ込まないでください…)などなどが頻発し、人とのつながりが薄れていくという。
人とのつながりって、単に仕事をもらうためだけに必要なわけではないのです。
自分の万が一の時のために、自分のところに来てくれた依頼者に迷惑をなるべくかけないようにするためにも、必要なのです。
そこのところが盲点だったなと気が付いた偲ぶ会でした。
Y先生、教えてくれてありがとう。安らかにお眠りください。
追伸
後日、テラバヤシの後始末事務所という不名誉な指名を受けてしまった先生方、怒らないで相談に乗ってください、お願いします…

