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調停の待合室のこと。

テラバヤシといえば「刑事弁護」のイメージを持つ方が同業者の中では、非常に多いように思うのですが、現在仕事で大きなウェイトを占めているのは離婚を中心とする「家事事件」となっています。実は、本日現在手持ちの刑事事件はゼロだったりして。

弁護士のところに依頼がある家事事件というのは、もう当事者同士の話し合いではどうにもならないことが多く、相談にいらした時点で「協議」が難しいもの、すでに調停の申し立てがされちゃっているものが大半を占めています。
で、そうすると必然的に仕事の中で、手続代理人として「調停」を申し立てたり、答弁書を書いたり、当事者と一緒に調停の期日に出席したりすることが多くなります。

東京家裁の場合、午前の調停は10時から12時までがめど。午後は13時30分から15時がめど。例外的に?15時30分から17時という時間帯も用意されています。しかし、場合によっては予定が大幅オーバーすることもままある。特に、調停成立直前の調停条項の内容を詰めたりするときなんて、結構長引きます。13時30分に始まって全部終わったら18時回ってた、なんてこともありました。

で、家事調停は原則的に、申立人と相手側が交互に調停室の中に入り、調停委員や裁判官・調停官、時に調査官と話をするので、反対当事者が調停室の中に入っているとき、あるいは事件の進行や成立する調停条項の内容について調停委員と裁判官・調停官、調査官らと打ち合わせているとき(評議と呼びます)などは、それぞれ「申立人待合室」「相手方待合室」で、次に呼ばれるのを待っていることになります。

待合室は、調停開始時間からしばらくの間は、当事者と代理人、当事者が連れてきた子供、当事者に付き添ってやってきた親兄弟などなどであふれかえっています。開始少し前の時間帯なんかになると、座る席がなくなって立って待つ人も出るくらい。

テラバヤシの場合は、調停のある日は、東京の場合だと家裁の1階、場合によっては隣の弁護士会館の1階で依頼者と待ち合わせをしてから、一緒に待合室に向かいます(依頼者と一緒に遠方に行くときは駅で待ち合わせとかもある)。
第1回の時には、その道すがら、あるいは待合に入ってから、簡単に最初の進行などについてお話したりして(ただ、一応裁判所が説明する一般的な手続を話しても、実際の調停委員がそれを踏襲するとも限らないので、あまり詳しく説明はしないのですが)、最初に呼ばれるまでの時間を過ごします。

依頼者の方は、当たり前の話ですが、特に第1回開始前は、かなり緊張しているので、あまりわーわーしゃべりすぎないようにはしています(注:自分としてはそのつもりですが、根が沈黙が怖い小心者なので、ひょっとすると依頼者からすると、「も少し静かにしてくれればいいのに」とか思っているかもしれません)。

その後の待ち時間は、依頼者の方と世間話をしながら過ごすことが多いかなあと思います。
もちろん、調停委員からの話や、調停委員から伝え聞いた反対当事者の意向や状況等を踏まえて、必要に応じて、その後の持って行き方について話をすることもあります。
が、それだけで終わるわけじゃない。
30分40分、時には1時間以上待つこともあるわけで、その間ずーっと打ち合わせてる事件なんていうのは多分まれでしょうし、事件の話だけなんて、普通に考えて、間が持たない。

まあ、時折スマホでメールチェックをしたり携帯電話チェックしたりして、急ぎの時には「ごめんなさい」と断ってから、返信したり電話かけに行ったりすることもないではないですが、性格的に、こういう落ち着かない状況で仕事のメールに返信したり仕事の電話かけに行ったりするのは苦手なので、ほとんどやりません。

世間話は、本当にその場のノリと雰囲気で種々様々です(世間話ってそういうものですよね)。
依頼者さんの方から、テラバヤシのことや弁護士の仕事のことについて尋ねてきて、それをきっかけに話が広がることもありますし、私の方から、依頼者のお子さんのこととかお仕事のこととかうかがうこともありますし。
たまたま、依頼の方が持っていたものが自分の愛用品でもあった場合に、そのことで盛り上がる、なんてこともありますし。
で、そこから、身の上話とか、最近の公立の小学校の学区割の話とか、種々様々に話が広がって続いて行って、そうこうしているうちに調停委員が迎えに来る…という感じです。
緊張して落ち着かなくて、タバコを吸いに行ったりトイレに行ったり、飲み物を買いに行ったりとずっとそわそわしている依頼者をお待ちしている、なんてことも過去ありましたが。

個人的には、弁護士の多くは、調停の待合室でこういう風に過ごしているんだろうなと思っています。
待合室で、依頼者そっちのけでパソコンに向かっている弁護士らしき人は、少なくとも目についたことは私の場合ありませんし。
テラバヤシの場合、別に、依頼者の方の緊張をほぐそうとかいう意図は全くありません。自然発生的に流れのままに話している感じです。

もしかすると、中には明確に依頼者さんの気持ちを和らげようという意図で積極的に世間話をしている弁護士もいるのかもしれませんが、テラバヤシの場合、そんなことまったく考えておりません…自分の退屈しのぎの側面も多々あり。
が、自分にとっては、いくつかの意味で、結構大切な時間だなあと思います。

単純に、一緒にいる依頼者のことをより理解するという面もあります。「あ、こういうところがある人だったんだ」とか「もしかすると自分が思っていたより、相手方に対して恐怖心を持っていたのかもしれない」とか、言葉の端々やその方の行動なんかで気づくこともあります。それが、そのあとの打合せや提案の仕方なんかに活きることも結果としてあります。

後は単純に、自分の引き出しが増えるということでしょうか。
テラバヤシは、「テラバヤシの人生」という1つの人生しか生きられないわけで、経験できることはごくごく限られている。
世間話をすると、自分以外の人が経験してきた生活を知ることができるし、その人が見てきた世界をおすそ分けしてもらうこともできる。
それが、違う依頼や相談でお会いした人と話を進めるうえで、知識として役に立つこともあれば、その方の話の理解の手助けになることもあれば、話題作りに一役買ってくれることもあるわけで。
そこを離れたとしても、自分自身が何かの情報源に触れるときに「そういえば、あのとき○○さんがこんな話してたっけ」と思い出して、より深い理解につながることもあったりするわけです。

弁護士は、事件によって成長するとはよく言いますが、依頼者さんとの関係で引き出しを増やしてもらうことが多々あるな…と調停の待合室で過ごす時間が増えてきた昨今、しみじみ感じ入ります(うーん、いい人な発言でなんだか恥ずかしいなあ)。

そんなわけですので、依頼者の皆様方(未来の依頼者の皆様方も含む)には、これからも、調停待合室でのテラバヤシの退屈しのぎにお付き合いを願うこととなります。
もちろん、私は静かに過ごしたいの、できればあんまり話したくないの、という方は、どうぞご遠慮なくお申し出くださいませ。






by terarinterarin | 2016-01-17 18:30 | Comments(0)

寺林智栄の弁護士としての日々や思いをつづります。


by terabayashi