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相模原事件に見る「危険人物による犯罪」防止の必要性。

いわゆる相模原事件の後、このブログの「事件を起こした精神的にまずい人のその後」という記事のアクセス数が伸びています。
コンスタントにアクセスが多い記事ではあったのですが、この事件でフィーチャーされた「措置入院」について書いていることから、おそらく検索ワードで上位に来るようになったのではないかと思います。

7月31日の夜には、NHKでこの事件を検証する番組が放送されていました。
事件が起こってわずか5日の放送の割には、被疑者が施設を退職してから事件を起こすまでの間の言動のいくらかを明らかにしており、かつ今後の「危険人物」(措置入院歴がある人という言い方をするととても語弊があるので、あえてこの言い方を選択します)への対応方法を考えるうえでの視点を与えるもので、それなりに意義ある番組だったように思います。

この番組を見て、今回の事件は、「他害の恐れがある危険人物に対する医療制度、司法制度の谷間に落ちてしまったために起きた事件」であると強く思いました。

先に挙げた記事でも書きましたし、報道でも取り上げられているのですでにご存じの方も多いと思いますが、「措置入院」というのは、あくまで精神科の指定医が「自傷他害の恐れがある」と診断した人物を強制させることができる制度であり、治療が主目的ではありません。つまり、「自傷他害の恐れ」がなくなってしまえば、その時点で退院をさせなければならないわけです。
相模原事件のケースでは12日間でしたが、ほんの数日で退院になるケースもあります。

実際には、この後、医療保護入院に切り替えて比較的長期間の入院を本人の意思に反して行うことができる場合もあります。これは、対象となる人が自分の意思で入院を選択できない場合(つまり病識がないなど)に適用されます。しかし、医療保護入院はあくまで、その人を「保護する必要性」がある場合に限られるもので、家族や市区町村長の同意が必要となります。

そして、なにより、保護入院が許容されるためには、対象者が精神障害者であることが必要です。
今回の事件の被疑者は、措置入院時に大麻の陽性反応が出たものの、その後、「どうかしていた」などと反省の弁が出た、そこで退院することになったとのことでした。

実際に医療記録を見ているわけではないので、あくまで上記の情報を前提とすればですが、今回の事件では、被疑者の言動が大麻使用による一過性のものであると判断されたか、あるいは依存があるとしても、本人の意思に反してまで入院させる必要性がないと判断された可能性があるように思います。

そのために彼は社会に放たれることになってしまいました。
病院の勧めで、任意に薬物依存の治療に通院したようですが、ほんの数回でやめてしまったという情報も放送されていました。

退院後の彼の言動(友人らに対して犯行を誘ったり障害者殺害の決意を語っていたこと)は、おそらく通報があれば、再び措置入院の対象になりうるものだったでしょう。
しかし、恐らくは比較的狭い人間関係の中でしか語られず、また普通に生活している形跡もあったため、通報に結びつきにくかったのではないでしょうか。友人らとしては、警察に通報したのがばれた場合には、報復されるのではないかという恐怖心もあったかもしれません。
被疑者は、元々善良な人間だったようで、友人らには、自分たちが説得すれば翻意させられるのではないかという思いもあったのかもしれません。

今から振り返れば、退院させるという医師の判断が正しかったのか、友人たちが警察に通報しなかったのはどうだったのかという疑問は当然生じることと思います。

しかし、ここで医師や友人たちを責めても、何の意味もないのは明らかです(特に今日のNHKの番組では、顔をさらしてインタビューに応じていた友人の方がいました。この方には敬意を表するとともに、今後誹謗中傷にさらされることのないよう切に祈ります)。

私も、今まで、措置入院や保護入院の後に事件を起こしてしまった人(あるいは事件を繰り返す人)の事件を何度か受任したことがありました。
主治医に会ってお話を伺ったりもするのですが、私が会った医師は、みなさん、非常に落胆していました。
「自傷他害の恐れがあるかどうか」の判断は非常に難しいものでしょうし、退院後の異変まで読むことまでは到底できないことなのでしょう。

また、こういう「危険人物」の周囲の人々の心境も、また複雑この上ないものです。「止められなかった」ことを後悔し、あたかも自分が犯罪者であるかのように自分を責める人もいたりするものです。

NHKの番組でも示唆していましたが、必要なことは退院後のフォローアップです。
対象者やフォローアップの方法、程度など議論すべきことは多いでしょうが、今回の件に限らず、措置入院後に事件を起こす人というのは少なからずいるわけです。池田小の事件もそうでした。特に「他害の恐れ」があるとして措置入院となった人物については、フォローアップの制度を設けることは必須だと思います。

今回の事件は、健康な?20代の男子という、ある意味の強者が、「重度の障害者」という社会的弱者の中でもとりわけ抵抗できない人をターゲットに、抵抗が極めて困難な真夜中に引き起こしたもので、レイシズムやナチズムなどの危険思想の影響がかなり強いと考えられます。

こういう思想が絡む事件が起こると、事件を「危険思想の蔓延」のせいにして、「危険人物による犯罪の防止」という制度を人権侵害の危険が高いからという理由でやみくもに反対する人が必ずいます。

しかし、そういう社会全体の思想傾向の問題と、「防げる犯罪を防ぐ」という個々の犯罪防止の問題は全く別次元のものなのであって、やはりこういう事件が起きてしまった以上、「制度の谷間」を埋める試みというのは、今後していくべきであると、強く思います。
これは犯罪被害を防ぐためだけでなく、犯罪者を生み出さないためにも必要なものだと思います。


最後になりますが、(これも以前書いたように記憶していますが)テラバヤシの記憶する限り、人生で初めて友達になった人は、当時「自閉症」と診断されていた同い年の男の子でした。
その人とのかかわりは、私の人生に大きな影響を与え、弁護士の仕事をしていくうえでかけがえのないものになっています。

人は、どんな人でも、誰かの人生に影響を与え、導く力があると信じています。

月並みですが、お亡くなりになられた皆さんのご冥福を心よりお祈りするとともに、負傷された皆さんの一日も早い回復をお祈り申し上げます。

Commented by 理系人 at 2016-08-19 22:14
とかく製品やアイデアのベネフィットや作用機序を書きがちですが、
「社会的主張」やそれを裏付ける「プロフィール」にも独特の訴求力がありますね。
Commented by 理系人がリンク貼った at 2016-08-19 22:22
リンク貼っときますね。

「事件を起こした精神的にマズい人の、その後。 」
http://terarin.exblog.jp/22131380/
Commented by terarinterarin at 2016-08-23 12:10
ありがとうございます!
by terarinterarin | 2016-08-01 01:02 | Comments(3)

寺林智栄の弁護士としての日々や思いをつづります。


by terabayashi