人気ブログランキング | 話題のタグを見る

被害者と弁護士のありようについて考えてみた。

前回の投稿、「弁護士にはとってもつらい性犯罪」は、犯罪を犯した側に弁護士が立った時の目線で書きました。
今回は、犯罪によって被害を受けた側(被害者やそのご遺族を含みます。)と弁護士の問題について書いてみようと思います。

弁護士の第一の使命が「依頼者の利益を守る」ことにあることは前回もお話しした通りです。
つまり、弁護士は、犯罪を犯した人の弁護人になればその人の利益を守るべく活動しますが、被害者から委任を受ければ、被害者の利益を守るべく活動することになるわけです。
テラバヤシも、比率としては、「弁護人」として犯罪を起こした側、起こしたとされる側に立つ割合が多いですが、被害者側の代理人の仕事をしたことも何度かあります。

被害者側の代理人の活動としては、被害弁償の請求を行うこと、「被害者参加」という刑事手続への参加につき代理をすることが主にあげられます。

被害弁償の請求については、まずは、示談交渉を行うことが考えられます。示談交渉で満足が得られない場合には、従来であれば民事訴訟を起こさなけれがなりませんでしたが、現在は、損害賠償命令といって、有罪判決後に刑事事件を担当した裁判所が、引き続き損害賠償請求について審理を行い、賠償を命じる制度があります。「訴訟提起しなおし」による費用や時間が節約できることになった点で、損害賠償命令は、被害者を経済的に救済する大きな意味を持つ制度であるといえるでしょう。
「被害者参加」というのは、刑事裁判に被害者が参加する制度で、被告人に対して質問することもできますし(質問できる範囲には一定の制限がありますが)、また、裁判の最後に意見陳述することもできます。

もちろんどれも被害者本人が行うことが可能です。
示談に関しては、弁護士が代理人としてついていない場合、捜査中や裁判前、裁判中であれば、検察官が間に入って連絡窓口を務めたりします。
被害者参加についても、意見陳述は、書面に書いたものを裁判官に代読してもらえます。

がしかし、弁護士を頼まずに対応するとなると、なかなかにハードルが高くなって、できなくなることも出てくることは事実です。
例えば、示談の打診を受けたけれど、その金額に納得できないという場合、加害者側についている弁護士と「交渉する」という気持ちを持つことについて気後れする人も少なくないでしょう。
示談書の文言についても、入れてほしい言葉があるにもかかわらず、それがうまく言えないということもあるかもしれません。
なにより、損害賠償命令であるとか民事訴訟に持ち込むということは、一般の方ではかなり難しいように思います。

被害者参加についても、本来であれば、犯人に聞いてみたいことがあるという方も少なくないのかもしれません。
しかし、自分に害を与えた人間と直接対峙することに恐怖心があるでしょう(非公式に検察官が被害者から聴きたいことを聴取して質問していることも少なくないかなあと思いますが)。
弁護士に頼むという選択肢を持たない場合には、あきらめてしまう場合も多いのかもしれないと思います。

犯罪被害者代理人については、法テラスによる費用援助のシステムもありますし、警察や検察庁でインフォメーションがあるようです(一部の検察官は積極的に進めているという話も聞いたことがあります。本当かどうかはわかりませんが)。
そうであるにもかかわらず、思ったほど「被害者に弁護士がつく」という流れは定着していないように思うのです(交通事故による傷害や死亡のケースは除きますが)。

私が被害者の代理人を担当したのはいずれも財産犯のケースで、どちらも示談交渉のみの受任でした。
自身が被告人の弁護人をやったケースで被害者に代理人がついたことは何度かありますが、「被害者参加代理人」として弁護士が関与したケースは少ないです。
性犯罪の被害者の方でも、代理人が付くケースはわずか、という印象です(もちろん正確にデータをとっているわけではありませんが)。

被害者に代理人がつくことは、独りでは躊躇することをできるようにしておくという意味で重要性が高いと思います。そして、さらに「限界を理解する」「できないことを理解する」という意味でも、非常に重要だと思うのです。

一番典型的な問題は、やはり、示談です。

先方から提示された金額が納得できない。
弁護士から見ても、生じた被害を考えれば、本来ケタ一つ違うだろうという提示しかない場合があります(弁護人として示談交渉する場合に、そういう提示しかできない場合もままあります)。
裁判をやれば、もっと多額の支払いが認められることは目に見えている。
それでも、犯人本人に資力がない場合、スポンサーが親兄弟で、出せるお金に限界がある場合、判決で勝っても、その判決が「絵に描いた餅」でしかなくなってしまうことが往々にしてあります。親兄弟のお金を差し押さえたりすることはできませんので。
しかも、刑事事件の判決が出てしまえば、犯人についている弁護人の仕事は終了。交渉の窓口もなくなってしまう。

そういう状況下で「実を取る」としたら、ケタ一つ下がる金額でも、示談に応じる(あるいは被害弁償を受けておく)という選択をしておいた方がまだマシということが往々にしてあります。

もちろん、犯人についた弁護人が、被害者本人に対してこういう説明をすることもすることも多いと思います(まともな弁護人ならやるはずです)。
ただ、被害者からしてみれば、「自分に害を与えた側についてる弁護士」からこんな話されたって、「はいそうですか」とはなかなかなりにくいであろうと思うのです。不条理さが増すばかりということも少なくないでしょう。

「被害者側についた弁護士」が被害者の気持ちを聞いて理解したうえで、「実を取るのはどうですか」と提案してこそ、ある程度納得して受け入れる余地が初めて出てくるのだと思います。
もちろん、「絵に描いた餅でもいいから、犯人に自分がやったことの重みはこれくらいの金額になるんだとわかってもらいたい」と被害者が言えば、被害者の代理人としては示談を蹴って訴訟を選択することになります。そういう意味では、実はとれなくても被害者の意向を反映した手続を踏むことが可能になるわけです。

なのに、被害者の代理人が付かないことが多いのはなぜなのでしょうか。

ひとつには弁護士費用の問題があるように思います。
被害を受けた自分が、さらに弁護士費用を負担しなければならないということの不条理感が、弁護士に依頼することを躊躇させているのかもしれません。

また、特に性犯罪の場合なんかだと、捜査機関に対してだけでなく、弁護士にも被害事実を話さなければならないという心理的負担が足掛けになっているように思います。
それ以前に、外界のあらゆる人物との接触をしたくないという心情から、弁護士にたどり着かないという人も相当数いるのかもしれません。

一般の方からしてみれば、悪いことをした犯人には、金がなくても国の費用で弁護士を付けることができるのに、被害者には弁護士の手が届きにくいという点で、不公平に感じられるのだろうと思います。

そうすると、全ての犯罪とは言わないまでも、性犯罪を中心とした一定の犯罪については、名簿制の弁護士派遣制度を作るのも1つ手かもしれません。
例えば、捜査機関(警察署や検察官)が被害者に対して「弁償などについて弁護士の相談を受けたいか」などと意向を聞き、被害者がイエスという返事をすれば、各地域の弁護士会の担当部署に相談弁護士の要請を行う…といった制度です。
私が思いつくくらいだから、既に導入している弁護士会もあるような気がするんだけど…どうなんでしょうか。

一度犯罪の被害に遭った人の恐怖心や心理面の問題を解消することは(遭った被害の内容にもよりますが)困難で、法律家だけでどうにかできるような問題ではないでしょう。
しかし、助力できる人間が適切に助力することによって、軽減することは可能なはずです。

ちなみに、「優秀な刑事弁護人は優秀な被害者代理人である」と思っています。敵の手の内が大体わかるわけですから。
刑事専門を謳う弁護士の中には、被害者側はやらないという信条の人もいるかもしれません。
が、基準としては間違っていないと思いますので、(必要ない情報かもしれませんが)弁護士選びの参考にしてもらえればと思います。












by terarinterarin | 2016-08-29 01:07 | Comments(0)

寺林智栄の弁護士としての日々や思いをつづります。


by terabayashi