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長谷川豊さんの人工透析騒動について思うこと

フリーキャスター長谷川豊さんのブログ「本気論 本音論」の9月19日の記事が物議をかもしていることは、多くの方が既にご存知だと思います。

重い腎疾患で人工透析を受けている患者の多くが「自業自得」であり、こういう人を経済的に年金や保険が救済できるため、病院が大変に大儲けしている。このような利権まみれの保険や年金システムは解体すべきだ…という趣旨の記事です。
この記事が人工透析患者を侮辱していると報じられて長谷川さんには多くの非難が集中し、結果、現在のところテレビ番組2つを降板することになったようです。

私は、一読して、国民の負担の上に一部の病院が大儲けできるような年金・保険のシステムを改革すべきだという趣旨のことを言いたいのだな、と思いました。
また、全ての人工透析患者を一緒くたにして「自業自得」と言っているわけでもないと感じました。
が、糖尿病も含めた生活習慣病は、実は貧困層に多いとも言われています。実際、仕事を通じて、テラバヤシもこの点は強く感じます。
また、体質的な問題で、それほど不摂生な生活を送っていない人でも糖尿病予備軍にはなるものです。何を隠そう、この私も、ヘモグロビンA1Cの値が何年もの間健診でひっかり続けており、遂に今年は栄養士の指導を受ける羽目になったくらいです(テラバヤシをよく知る人は、あのスリムな体型で?運動もある程度しているのに?と思うことと思います)。
一定の「自業自得」層がいることは否定できないとはいえ、それを人工透析患者の「大半」と書いてしまったことは、甚だ勉強不足・調査不足、あるいは「書きすぎ」でしょう。結果として記事のその部分に焦点が当たってしまい、多くの非難が集中したことは、致し方ないのではないかと思います。

長谷川さんといえば、今までもブログの記事が物議をかもすことが何度かありました(注:自分のことは棚に上げています)。
個人的に印象に残っているのは、昨年、安保関連法の議論が華やかに繰り広げられていたところ、日本国憲法と国連憲章の記載の違いを指摘して「憲法9条は違憲だ」という趣旨の記事を書いたことでした。
一国の憲法と国際法規の効力の優劣については、著名な憲法学の本のどれにも記載がありますし、最近であればネットてちょっと探せば苦労せずに調べることができる類のものです。
そういう最低限のことをしていないのか、したうえで敢て書いているのかよくわかりませんでしたが、いずれにせよ、自身の発信力の強さも考えずに、世間をミスリードする投稿を平気でする方なのだなと思いました。

一方で、元少年Aが書いたという「絶歌」については肯定的な意見を述べていました。世間の多くが、元少年A自身や「絶歌」に対して、強い嫌悪感を示していました。
「絶歌」については、テラバヤシも肯定的な意見を述べて非難のコメントもいくつか受けたのですが、正直なところ、長谷川さんが肯定的な意見を出していたことには驚いたものです。

今回の「人工透析騒動」に関しては、今まで長谷川さんに対してたまっていた「ツケ」が一挙に精算されてしまったなと感じています。
今までの様々な刺激的発言がなく、ポッと今回の記事が出てきただけであれば、彼には少なくとも、テレビなどで弁明の機会が与えられたように思うのです。
ですが、今までの物議をかもす発言によって、少しずつたまっていたアンチ長谷川な雰囲気や、テレビ関係者の「あまり何もしてくれるな」というハラハラ感が、この度限界線を越えてしまって、「テレビには出すべきでない」という見る側と作る側の暗黙の合意形成に達してしまった…そういうことではないかと思います。

ただ、長谷川さんの記事の内容が、仮に、例えば「生活保護受給者には人工透析を受けさせるべきではない」とか「貧困層に対する医療費支援策は即刻辞めるべき」、つまり、「貧乏人は医療を受けられずに死んでも構わない」という論調のものだった場合(あるいはそのように受け取られる記事内容だった場合)、今回の様な非難の嵐が巻き起こり、テレビ番組を降板させられるような事態にはならなかったのではないでしょうか(注:長谷川さんがこのようなポリシーの持ち主であることは私にはわかりませんので、あくまで、このようなことを書いたと仮定してのことです。誤解のないようお願い致します)。

今回、長谷川さんがここまで叩かれてしまったのは、世間の大半が「叩いてはいけない」と考えているであろう「人工透析患者」を叩いていると受け取られる記事を書いてしまったからでしょう。
「生活保護受給者」「貧困層」に対しては、「自分たちが納めている税金を食いつぶしている」「ろくに働きもしない怠け者」などと揶揄・非難する層が相当程度おり、そのため、世間の一定数の人々は、こういうカテゴリーに属することになった人々の内情に対する理解もないまま、「叩いていい人」と認定しています。
仮に今回の長谷川さんの記事がこういう「叩いていい人」と世間的に思っている層を叩くとも受け取れるものだった場合、ネット上には、彼を擁護・称賛するコメントが多々寄せられることとなり(もちろん非難するコメントも多々寄せられることとは思いますが)、番組降板という事態には至らなかったと思うのです。

これは、対象が在日朝鮮人・中国人といった人たちでも同じでしょう。在特会の元代表者桜井誠氏が東京都知事選で在日朝鮮人を排斥するような公約を掲げたところ、かなりな票数を獲得したことからも想像に難くありません。

今回の騒動の本質は、結局のところ「リサーチ不足の不適切な発言」や「誤解を生むような過剰な言動」が非難の的になったというものではなく、なんとなく世間的に叩いちゃいけないことになっている層を叩いてしまったというKY感を責めているものにすぎないように思えます。
日本の世の中に巣喰っている、弱者や異物は叩いていい、みんなで同じ方向を向いていて当たり前という同質性を強要する雰囲気が透けて見えてしまう、なんともいやな騒動だと、つくづく思うのです。


Commented by 最初にあったときは石化 at 2016-10-05 22:28
ほのぼのとした雰囲気で猛獣達が吊るされていて心が和みます。

意見表明の多様性について考えさせられることの多い昨今ですが、なるほど「リサーチ不足」や「過剰な言動」はミスリードの原因になるから好まれない面があるのかもしれません。勉強になります。
Commented by terarinterarin at 2016-10-05 22:43
> 最初にあったときは石化さん
コメントありがとうございます。
私も明日は我が身と思い、気をつけねばと思います。
特に「過剰な言動」は人目を惹きたいという一心で発せられる場合も多い物だと思いますので。
by terarinterarin | 2016-10-01 15:33 | Comments(2)

寺林智栄の弁護士としての日々や思いをつづります。


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