押してダメなら引いてみな。

意外に弁護士の仕事というのは、訴訟→いい判決もらうというものよりも、交渉によって物事を解決する場面の方が多いように思います。

確かに刑事事件の場合、被疑者が起訴されてしまえば後は判決をもらうだけということになりますが、実際には、その判決の中身をどれだけ被告人にとって有利にするかについては、裁判官を納得させるだけの材料を見抜き、揃え、それをアピールする(尋問や最終弁論で)という点で、実は交渉的な要素があります。
その前の捜査段階ではなおのことで、例えば勾留却下を勝ち取るという意味では上と同じですし、不起訴あるいは起訴猶予を得る段階では、最終的に検察官との交渉が必要になる場面が結構あります。
検察官は、往往にして処分見込みを口にはしませんが、とりあえず話をしてみて、見込みを読み取り、こちらに有利な処分にするために何が必要なのかを的確に分析し、それを示すという過程は、起訴されるのかされないのか微妙という案件では、かなり重要なもので、戦うだけが能ではないということもしばしば起こり得るのではないかと思います(テラバヤシの場合、刑事事件に関しては、もうどうしたって起訴されて仕方ない案件しか最近来ないので、このような交渉をすることがあまりないといえばないのですが)。

民事や家事であればなおのことで、訴訟外の示談交渉案件に限らず、調停や訴訟などの裁判所の手続を利用する場合にも、よりこちらに有利な条件を得るため、あるいはすでに約束してもらったこちらに有利な条件を反故にされないために、交渉をすることが必要となります(調停成立や和解成立に向けて)。

この交渉をするにあたって、忘れちゃならんと思うのは、当事者間の力関係というものかと思います。
弁護士も含めて意外に、交渉というものは対等な立場で行うものという大前提に立っている皆さんが多いように経験上見受けられるのですが、実際のところはそうではない。
原則的には、類型的に「立場の強い、弱い」というのはある程度決まってしまっているのではないかと思うのです。
基準としては、裁判外の交渉事案であれば、仮に審判や判決を下されるとした場合に、こちらの当事者にとってどのような結論が出ることが予想されるかということが大きいかと思います。
そして、交渉をうまく運んで、少しでも依頼者に有利に、あるいは不利にならないような結論を導くためには、弁護士としては、この辺りの理解が一番必要ではないかと思うのです。

また、物事の優先順位をつけることも交渉の上では必要です。一番最優先したい事項はなんなのか、次はなんなのかということ。
この2つの事情を組み合わせて考えることによって、双方妥協することによって、真に有利な交渉の結論というのが出ることになるのではないでしょうか。

しかし、先ほども書いたように、そもそも当事者の有利不利ということを考えずにやたらめったらなんでも押してくるご本人や代理人がいたりすると、交渉はその時点で手詰まりになります。
こちらが有利な立場であれば、だったら交渉なんかやめて訴訟にするわ、判決にするわとなりますし、不利な立場の方でも、裁判所に持ち込んでもらった方が、あるいは判決に持ち込んだ方がまだましな結論になると考えれば、あえて交渉に乗らないということもあります(注:但し、訴訟や判決にすると時間がかかりうるので、それとの兼ね合いということになりますが)。

人によっては物事の優先順位をつけられないことによって、あれもこれも自分の思い通りにしようとして、結果、どれも思い通りにならない危険が生じうることもあり得ます。相手方がそういうタイプの場合には、やはりその時点で交渉を打ち切ることもあり得ます。

じゃ、自分の依頼者が自身の立場の有利不利や物事の優先順位を考えられない人の場合、どうするか、というと、これは説明をして説得するしかありません。
本人の優先順位と法律家の観点から見た優先順位がずれている場合にも、確認の上、それでいいのかと目覚めていただくことを促す必要があります。
往往にしてこういうケースは感情が先行してるがためにこうなってしまっているケースがほとんどなので、元々が理性的で賢明な方であれば、忸怩たる思いは抱えつつも理解して、粛々と進めることを選択してもらうことができます。
が。
元々が感情の生き物、プライドが高く「相手には一寸たりとも引くもんか」というお考えの方を説得するのは非常に困難です。
最悪の場合には、辞任解任ということになりますが、末路について想像がついているこちらとしては、「これでいい結果が出るわけではないんだけどなあ」と多少嘆いたりもするものです。

先ほども書いた通り、交渉というのは、押したり引いたりによって成り立つもの。
真に自分にとって有利な結論を得ようとするのであれば、相手にも不満が残らないように引くことが最善という場合が圧倒的に多いように思います。

ですが、訴訟にする前に交渉で解決したいとご相談に来る方に限って、こういうことを理解していない方が少なくないのもまた事実です。
それは、最初から訴訟になったら自分が不利だとわかっていて、自分や弁護士という肩書きの威圧感を頼りに、相手を力でねじ伏せようとしているからに他なりません。
そもそも望んでいるのが、交渉でもなんでもないというわけです。
なので、テラバヤシは、交渉案件で依頼を受ける場合には、その後に訴訟や調停などになりうることを念頭においてくださいと、ほとんどの場合(訴訟になり得ないものも稀にあるので)依頼者に予め話すことにしているのです。

追伸
体調不良で、しばらくの間スローペースで仕事をしてまいりましたが、大分良くなってまいりましたので、少しペースを上げていきたいと思っています。
一般の皆さんのご相談、心よりお待ちしています。
同業者の皆さんも、テラバヤシに、というものがありましたら、どうぞお声がけいただければと思います。



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by terarinterarin | 2018-03-03 15:51

寺林智栄の弁護士としての日々や思いをつづります。


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