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それでも弁護人は保釈を求める。

あけましておめでとうございます。
ちょっと長めのお正月、皆様いかがお過ごしでしょうか。
私は年末から札幌の実家に戻り、毎日食っちゃ寝の堕落生活を送っております。

さて、だらだらと過ごしていた年末、世界に衝撃が走るあるニュースが飛び込んできました。
みなさん既にご存知の「ゴーンさん、国外脱出」です。

最初このニュースを知った時、ひょっとして海外渡航の許可を裁判所に求めて特別に許可が出たのをマスコミが勝手に騒いでいるのだろうかと思ったりもしました。
しかし、保釈にあたっては海外渡航は禁止であることがほとんどで、別途許可申請しても、実務上はほとんど通ることはないといわれています。
ましてゴーンさんの件は通常では考えられない厳しい条件下で、ぎりぎり?保釈が出たと思われ、海外渡航の許可が出るのは非現実的だろうと思われました。
実際許可は下りていませんでした。

しかし、パスポートは弁護団が預かっている。
とすると、外部に協力者がいて、非合法な方法をとった可能性が高いのではないか。
そんな憶測も手伝ってか?、ここ数日世界中を様々な情報が駆け巡っているようです。

弁護人の弘中弁護士は「寝耳に水だった」と仰っていましたが、弁護団としては、驚愕と失望と「してやられた」という気持ちが入り混じった非常に複雑な気分ではないかと思います。
ネット上のコメントの中には、弁護団が裏で手を引いたのではないかと糾弾するものも見られましたが、同じ刑事弁護に携わる弁護士として、100%あり得ないと断言できます。

弁護人としては、必死に考えた条件を提示して獲得した保釈です。
厳しい条件でも拘置所暮らしの不便不都合を思えば100倍マシ(注:普通の人にとっては)。
不自由が付きまとう自由でも、なんとかこらえてほしいと思うものです。
そうじゃないと保釈が取り消され勾留生活に逆戻りとなり、その後保釈をとることはほぼ不可能になるからです。依頼者の利益になりません。
それに、保釈された被告人を逃がすことに弁護人には何の得もありません。犯人隠避の罪に問われ、バッジを失う危険性が高くなります。
被告人にお金を積まれても、首を縦に振ることはない。
特に今回の弁護団はプロの刑事弁護人。
そんな危ない橋を渡ることは考えられません。

力を尽くして保釈をとり、最善の弁護を行おうと奮闘していたにもかかわらず、ゴーンさんは弁護人の知らないところで協力者と綿密な打ち合わせを行い、海外脱出をしたのでしょう。
ゴーンさんは自分の行いを正当化するコメントを出しているようですが、控えめに言って、弁護団に対する裏切り行為だと私は思います。ゴーンさんのコメントはあながち間違ってはいないという弁護士は少なくありませんが、私はあの言葉をまっすぐ受け止める気持ちにはなれません。

今回の件に限らず、弁護人が被告人に裏切られること、嘘をつかれることは少なくありません。
嘘をつかれることについては、日常茶飯事といっても過言ではありません。
依頼者に裏切られたり嘘をつかれたりするのは、何も刑事事件に限ったことでもありません。
民事事件や家事事件の依頼者にも同じことをされることがあります。

そういうことひとつひとつに一喜一憂していては務まらないのが弁護士の仕事です。

もちろん腹が立つことはあります。
場合によっては信頼関係の維持が難しいということになり、委任関係を解消することもあります。
でも、こんなことの繰り返しでも、弁護士の第一の使命は「依頼者の利益を守ること」です。
法に抵触しない限り、その使命に全力を尽くすのが弁護士の仕事です。

保釈についても同じです。
仮にとある被告人が保釈中に逃亡することが起こったとしても、別の被告人についてその希望があり、保釈の条件が整っているのであれば(保証金を用意できて身元引受人がいる)、保釈請求をするまでです。
弁護人は身体拘束が不当であり、かつ条件が整っていると考えているから保釈を請求する。それだけです。
保釈が相当かどうか判断するのは裁判所です。弁護人はできるだけのことをやって裁判所に判断をゆだねるのです。

もし仮に私がゴーンさんの弁護人だったとしても、やはり別の被告人のために保釈請求することは躊躇しないでしょう。
それが弁護人というものだと思います。

最後についでに言いますが、今回のゴーンさんの件は極めてまれなケースです。
今回の件があったからと言って保釈実務がこれ以上謙抑的にならないことを祈ります。


Commented by セント・オジチャンヌ at 2020-01-17 23:19 x
網走の天使オジチャンヌと申します。
流氷の下に閉じ込められている(閉じ込もっている)仲間の妖精さん達を自由にするヒントを探す旅をしています。
正月は、仲間の一人が春に流氷に乗って北米に転勤する前に少しお話しして過ごしました。日本ルールの適用なさそうな地域で心配もありますがビックになって帰ってくると思います

勾留と拘留の区別も曖昧なところがあるわたくしどもですが、知ってるゴーンさんの話題で、なんだか、すっきり読めました。ありがとうございます。

・・思えば、何が自分やクライアントの利益になるか、もしかすると当初の解釈は間違っているかもしれないから、どうするのが正しいかを私達は祈り求めるのでしょう。
人に寄り添う大切なお役目だと思います。先生方の進まれる道に幸あれ。
by terarinterarin | 2020-01-02 23:18 | Comments(1)

寺林智栄の弁護士としての日々や思いをつづります。ウェブサイト https://attorneyterabayashi.simdif.com  「弁護士テラバヤシ」でツイッターもやっています。


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