札幌弁護士会に登録替えして早4か月が経ちました。
現在の業務はこれまでの業務と全然異なり、裁判官や調停委員と丁々発止のやり取りをする現場に出向くことはごくわずかになっております。
意外に思われる方もいるかもしれませんが、国選弁護人・付添人の名簿には登録していません。
私選で声がかかることはあったとしても、刑事弁護の世界からは距離をとることになりました。
今の事務所で国選の刑事弁護の仕事をしないでくれと言われているわけではありません。
個人事件の受任は全く禁じられていないので、国選の登録も法テラスとの契約も全く自由です。
しかし、自分の判断で国選の登録をしませんでした(ついでに法テラスとの契約も解除しました)。
理由は、刑事弁護の世界から一旦離れたいなと思ったことにあります。
前事務所の北千住パブリック法律事務所には、刑事事件にコミットしたい弁護士がたくさんいました。
若手の弁護士が、堂々と警察官や検察官、裁判官と渡り合い、被疑者被告人の利益のために活動する姿は、とてもまぶしく映りました。
一方で、刑事弁護の世界がとても不自由に感じられていたのも事実です。
捜査段階では、黙秘が正義。
法廷では、ペーパーレスの弁護活動が正義。
そこから足を踏み外すことは絶対悪であるという風潮がそこはかとなくまん延していて、身を置くのがつらくなってしまったのです。
確かに黙秘は有効なことが多いです。
私自身、被疑者に黙秘をしてもらって、不起訴になったことが何度もあります。
しかし、黙秘ができない人も少なくありません。
コントロールがしにくいいわゆる問題児ばかりでなく、気が弱くて捜査官の圧に耐えられないという人が少なからずいるのです。
また、事件によっては、捜査段階で正直に話す方が有利な場合もあるでしょう。
実際、黙秘せずに話したことが功を奏して不起訴になったと思われる事例も経験しています。
そうであるにもかかわらず、どんな被疑者でもどんな局面でも黙秘絶対であるかのような風潮がまん延し、「今日も黙秘に失敗した」と嘆く(純粋な)若手弁護士を何度も目にしました。
その度に、目的と手段が逆転していないか、と言いたくなったものです。
また、法廷での弁護活動についてもペーパーレスが絶対ではないと考えています。
私は、一時、裁判員裁判でこのような法廷技術を推進する日弁連の委員会で活動し、各弁護士会で講師の仕事をしていました。
ペーパーレスでの弁護活動の目的は、冒頭陳述や弁論にあたっては、裁判官や裁判員を引き込んで説得することにあり、尋問の際には、証人や被告人の受け答えに機敏に反応し、裁判官・裁判員に尋問内容をしっかり頭に入れてもらうことにあります。
その目的から考えると、ペーパーが必要な時・あったほうがいい時が存在します。
全ての審理が終わり、評議にあたって法廷での弁護活動をリマインドしてもらうのに、手掛かりになるペーパーがあることが有用になる場合はあるでしょう。
裁判員裁判以外の「職業法曹」しか参加しない裁判で、ペーパーレスを貫徹する意味は、ほとんどないようにも思えます。
こちらも、「何が何でもペーパーレス」と目的と手段を逆転して考えている(純粋な)若手弁護士が何人もいました。
そして、若手弁護士がそんな風になってしまっているのは、ある意味洗脳的に、一定の型のみを是とし、それ以外の弁護活動はまるで悪であるかのように扱う刑事弁護人が少なくないからに他ならないように思うのです。
そんな刑事弁護の世界が、私には息苦しく感じられました。
(黙秘やペーパーレスが原則であり望ましいのは事実ですが、常にそうあらねばならないというのは違うだろうという意味です。)
北パブに所属していた際に最後に担当した裁判員裁判では、ご一緒した先輩弁護士が、黙秘第一主義、ペーパーレス第一主義とは真逆の、非常に柔軟な弁護活動をなさっていました。
そうして、一定の成果を上げることができました。
ああ、これでいいんだよな、と思えました。
黙秘絶対、ペーパーレス絶対、それ以外は悪というような刑事弁護の中心にいる人々の姿勢(あるいは、刑事弁護の中心にいる人々が醸し出す雰囲気)は、このように、一定の型にはまらず、自分なりのやり方で成果を上げてきた、古くからの刑事弁護人の積み上げを否定するものであるようにも思えるのです。
じゃあ、あなたも気にしないで、自分の思うとおりにやればいいじゃないと言われるかもしれません。
「自分なりの刑事弁護」をすることにびくびくしてしまう自分がいるのです。
「これが私のやり方です」と堂々とふるまうことが難しいのです。
「黙秘絶対・ペーパーレス絶対」を標榜する人たちに非難されるのも嫌ですし、主流派?に寄ってかかってこられては、きっと勝てないと思うので…
ですので、少なくとも当面は刑事弁護の世界から離れて弁護士の仕事をしようと思います。
黙秘もペーパーレスも、そうでないことも柔軟に取り入れた「私の刑事弁護」と堂々と言えるような気持ちになれたら、国選の名簿に登録するかもしれません。
それまでは、静かに、少し離れて、刑事弁護の世界を眺めることにしようと思います。