私は、2社の弁護士ポータルサイトに登録しています。
最近どちらのポータルサイトも、
「SNS上の誹謗中傷」に関する法律相談がかなり多くなっています。
急激に増えてきた気がします(個人的な感触です)。
そして、その大半は、誹謗中傷された人の相談ではなく、
誹謗中傷をした(あるいはしたと疑われる)人からの相談です。
とある人のツイートに、「〇〇」という書き込みをしたが
名誉毀損罪や侮辱罪に当たって逮捕されないか。
という内容のものや、
とある人のツイートに、「✖️✖️」と書き込みしたところ、
その相手から、「裁判にする」「弁護士に依頼した」などという書き込みがなされた。
自分はどうなるのか。
という内容のものが多いです。
どうして急にこのような法律相談が増えてきたのだろう?
と考えました。
おそらく、
プロレスラーの木村花さんの事件や
川崎希さんの件などから、
誹謗中傷された側が(お金はかかっても)法的手段を取ることは可能
ということが世間に広く周知されたことが
影響しているのではないかなと思います。
これらの件によって、
誹謗中傷された側は、誹謗中傷されてビクビクする必要が少なくなり、
「訴える」「弁護士に相談した」と宣言することによって、
誹謗中傷した側に、プレッシャーをかけることが容易になりました。
一方、誹謗中傷してしまった側は、
してしまった後で、ネットで誹謗中傷関係の記事を見たり、
誹謗中傷した相手から警告を受けたりして、
「自分がやったことは犯罪なのか?」
「捕まるのか?」
「多額の損害賠償を払わなければならないのか?」
などとビビってしまうようになったのだと思います。
ネット上の誹謗中傷は、
大小合わせれば、日常的にかなりな数に上っているはずで、
捜査機関が、有名人や身元が特定されている人以外の件で、
名誉毀損罪や侮辱罪で告訴を受理して捜査を行うということは
まずないのではないか、と思います。
まして、逮捕という身体拘束を行うことは、
よほど悪質な事案以外は考えられないでしょう。
*有名人やネット上で身元が特定される人のケースは別です。
一方、民事の損害賠償請求に関しては、
犯罪捜査よりも要件という意味ではかなりハードルが下がるので、
逮捕されるよりも提起される可能性が高いようにも思われます。
ですが、そもそも、
誹謗中傷した人が誰であるかを特定して、
警察に相談したり、民事訴訟を起こす前提として、
発信者情報開示請求というものを行う必要があります。
*警察が犯罪捜査に乗り出す場合、
警察自らがプロバイダに照会をかけることもあります。
発信者情報開示請求は、それ自体時間もお金もかかります。
弁護士に頼むとなれば、弁護士費用もかかります。
しかし、一方で、民事の場合、認められる慰謝料の額は、
わずかなことが少なくありません。
コストが見合わないのです。
なので、その点から、誹謗中傷されても、
実際には、手続きを諦めてしまう人が少なくないのも、
また事実ではないかと思います。
ただ、金銭的に余裕がある人は、
たとえ見返りが少なくても、
発信者情報開示請求や
これに続く損害賠償請求、警察への告訴などに
乗り出すことになるのだろうと思います。
発信者情報開示請求やこれに続く手続には
コストや手間ヒマがかかるので、
たいていの人は手続きをとらない。
だから誹謗中傷した人は安心していいですよ。
などと言うつもりはこれっぽっちもありません。
確かに実際に手続がとられるリスクは少ないかもしれません。
ですが、あなたのケースが、被害者が手続を取るケースになる可能性は
全くのゼロではありません。
そのことを肝に銘じて欲しいな、と思うのです。
ポータルサイトの相談を読んでいると、
気軽に個人を誹謗中傷する人って多いんだなあと思います。
きっと、同じような投稿を読んで、
ついつい尻馬に乗ってしまった
気が大きくなってしまった
つい酔った勢いで…
ということがほとんどだと思います。
立ち止まるきっかけがないまま、
口を滑らせてしまう。
その結果、後で逮捕や損害賠償請求に怯える結果になってしまう。
そういうことなのだと思います。
私も、過去には、SNS上で強い表現を用いて
ブログやSNSが炎上したことがありました
(個人を誹謗中傷したことはないつもりですが)。
SNSというのは、
有名人でない限り発言が拡散されていく感覚が薄く、
ストレートな物言いをしてしまいがちな媒体です。
ですが、たとえフォロワー数が少なくても、
人目につく一言を発すれば、
それは、もの凄い勢いで拡散されていきます。
いいね!やリツイートがたくさんあると、
自分の発言が支持されているような錯覚に陥ったりもしがちです
(いいね!やリツイートは必ずしも賛同の趣旨ではありません)。
そういうことを頭に置いておけば、
人の尻馬に乗って、
個人を傷つけるような発言はしないで済むのではないかな。
そんなふうに思います。
加害者になったのではないかと悩む前に、
加害者にならずに済むことを考える方が
生産的ではないかと思うのであります。